第3話 あーなんというか

 横断歩道を渡り終わる。

 ほんの、すこし前。

 後ろで、すごい音がした。


 私は。……振り返ってしまった。




 信号待ちの車列。その向こう側。

 なぜか、一台の白い車が歩道側にある。

 半分車道側に押し倒した、ガードレールに乗り上げて止まっていた。


 ただ、前のタイヤは、まだ勢いよく回っていた。

 私は、あわてて横断歩道を戻り。

 いつも、彼が帰る方向を見る。


 でも、彼はいない……。


 周りには、跳ねられて、倒れている人が幾人もいた。


 すぐに人が集まりだして、警察に電話したり。

 救急車の手配とかを、し始めていた。


 いやな予感がするのだけど、私はガードレールに乗り上げて、タイヤが回っている車の前へ、回り込もうとする。


 すると、それに気がついたのか、車道に停まっている車の人が、

「来ちゃダメ。見ない方がいい」

 そんな言葉を、叫んでいる。


 そう叫んでいる人の、車のドアあたりにも。

 血が飛んで、赤く汚れている。


 タイヤがまだ回っているので、触れないように。

 倒れかけている、ガードレールを回りこみ。

 車道に出て、そっと、車の下を覗き込む……。


 彼が……。

 居た……。


 胸の所で、ガードレールと車に挟まれ、口から大量の血が吐き出され、頭の方に伝い。ポタポタと、道路に滴っている。


 ちょうど、万歳をしているようだけれど。

 その腕には力がなく。

 一目で、彼の命がないことは、分かる状態だった。


 恐る恐る、彼の顔に手を伸ばす。

 ……頬はまだ柔らかく。暖かい。

 ……彼の右手を取り。脈を診る。


 でも、場所が分からない。

 どこを触っても、とくとくする所がないの。

 

 仕方がないから、彼の手をずっと握っていると。

 いつの間にか、車が持ち上げられて。

 彼を助け出してくれた。


 駆け付けた警察の人に、学校名と私と彼の名前を伝えたのは覚えている。


 そこで。

 ……私の意識が、途切れたようだ。



 次に、目を覚ますと。

 ……お母さんが、心配そうにのぞき込んでいた。


 腕に点滴が、なぜか刺さっていた。

「香織。気分はどう? 大丈夫?」

 そう聞きながら、頭元のボタンを押していた。


 すぐに看護師さんが来て。

 血圧を測りながら、

「気持ちは悪くない? 頭痛とかは?」

 と聞かれ。


「大丈夫です。ちょっと、ぼーっとする感じはあります」

 と、だけ答えた。


「貧血かしらね。血圧が下がって、倒れちゃったみたいね」

 お母さんが言ってた。


「話ができそうなら。警察の方が、話を聞きたいって。大丈夫そう?」

「うん。大丈夫」


 そのあと、説明をしたけれど、実際の事故の瞬間は見ていないことを伝え、最低限の話はできたと思う。


 その後。普人のご両親が挨拶に来て、先にご挨拶をしちゃったわ。

 彼に付き添っていてくれて、ありがとう。

 そう、言われたけれど、「いえ」と、一言しか返せなかった。


 その後の話でね。

 彼は、両親に付き合い始めた子がいるとは、言ったらしいけれど。

 委員長とだけ伝えて、名前を言っていなかったみたいなの。

 彼の両親に、名前を聞かれて恥ずかしかったわ。


 横でその話を聞いていた、お母さんにも。

 結局、この週末に紹介するつもりだったことまで、しゃべることになっちゃって。


 お母さんが、ぽそっと「残念だったわね」と言って、抱きしめてくれた。


 次に彼に会ったのは、2日後。

 事故の場合。

 司法解剖というのが入り、2日ほどかかったようだ。

 お通夜?に赴き。


 葬祭場の壇上に安置された彼に、樒(しきみ)という葉っぱでお水?をあげて、お参りをした。そこで妹さんにも会った。かわいい感じの子だった。


 帰ろうとしたら、佐藤君のお母さんから、彼の机の上にあったと。

 かわいい感じのハートのネックレスを頂いた。

 確認のために、包装紙を開けちゃってごめんねと謝られた。


 次の日。

 クラスのみんなと、お葬式に参列してお見送りをした。

 彼の遺影は、とても自然な笑顔だった。


 ご両親に、火葬場まで行くか聞かれたけれど、ちょっと辛くて。

 辞退させていただいた。

 ここ数日は、私の人生で、最も泣き暮らした日々となった。

 

 彼は、無事に天国に行っただろうか? そう思いながら。

 ……私は、空を見上げた。



 時間は少し戻る。

「さて、来たわね。ひのふの。……5人しか死ななかったの? 効率が悪いわね」


 雲の上に、なぜか、パルテノン神殿が建っている。


 そんな風景の中。

 その階段の上から、機嫌の悪そうな女神?が、こちらに向かって吠えていた。


「一応。説明はするわ。聞き逃さないように。えーあなたたちは死にました。なので魂を有効活用させてもらいます」


 どこかの、アニメのような言葉が紡がれる。


「私の管理している世界があるんだけれど、なかなか発展しないし。時間を置くとモンスターが出始めちゃってね。困っているの。それで、こちらの世界で死んだ魂をちょろ。……かすめ。……有効利用をしようとしているの。わかる? 一応転移特典で言葉と体の再構築。これは、じじいとか連れて行ってもしようがないから、記憶から15歳前後にしてあるわ。感謝して。それと向こうには、魔法があるから使ってね。なぜかこの世界の日本人だけ、なじみがいいのよ。魔法にしろ異世界にしろ。おかげで魂を盗むのに苦労するわ。じゃあ行って」

 

 そんなことを、言いたいだけ言って、俺たちは再び意識が暗転した。


 目が覚めると、一塊になって、森の中で倒れていた。


 ほぼ同時に、みんな気が付いたようだ。


 持っていたカバンとかはなく。

 ポケットに入っていたものは、全部ある。

 手は動く。

 異常はない。

 よし。


「皆さん。大丈夫ですか?」

 声をかけてみる。


 トンデモ女神?が言ったように、俺を除いて4人。

 男1人と女の子3人。

 ラノベは読んだことはあるが、現状把握と、モンスターが気になるな。


 その男が起きだすと同時に、一人の女の子に向かって歩み寄り「お母さん」と言って抱きついた。

 抱き着かれた女の子は「へっ?」という感じだが、「隆(たかし)ちゃんなの?」

「うん」

 ああ、15歳前後にするって言っていたな。年寄りは若くなるが、逆もまたありなのか。


 必要なのは、とりあえず自己紹介と、現状確認だよな。

 隆ちゃんがいくつだったのかは知らないが、頭脳は子供で体は大人なんて、問題が起こらないはずがない。

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