第2話 よくある普通の話

 少し戻り、委員長目線。


「そんなことを、言っている委員長だって、付き合っている相手はいないじゃないか」

「もてないあんたたちと違って。……それに、勉強とかも忙しいし、そんな暇がないだけよ。私から告白すれば、幾人かは、受けてくれるわよ」

「そんなこと言って。もてない事の言い訳をしたって、実際。誰とも付き合えていないじゃないか」


 男子たちのその言い草にムッときて、何かを考えこんでいる普人君に話を振る。はっきり言って、同意なんて考えていなかった。

「失礼ね。私なら付き合う相手としても、十分だよね。普人君」

「えっ。ああそうだね」


「「「えっ」」」

 皆が、普人君を見る。

「本当にいいの?」

 私は、思わずそう聞き返した。たぶんすごい驚いていたと思う。


 普人君はその後、改めて私を見つめ。否定もせず、「良いよ」と言ってくれた。そして、あっという間に、付き合う事になってしまった。

 皆に囃されたときも、声をあげてたしなめてくれた。

 


 佐藤普人君。

 クラスの中で、最も違和感のある不思議な人。変人とも言える。

 絶対こんな高校へ、入るような人じゃない。

 本人は理由があるのか、隠しているつもりのようだけれど。その非凡さは、いろんなときににじみ出る。

 その才能と能力は、皆が知って皆が認めている。


 彼がいるときに感じる安心感。

 彼のこだわりは、普通とか平均が口癖だけど、どんな困難でも普通だろと言って、済ませてしまう。クラス委員の時だって、彼が拒否をしなければ彼になっていた。


 それに、入学後の体力測定の時。

 ラインを引きながら、横を走っていた男の子を抜いたけれど、抜かれた彼は100m11秒後半の記録保持者。だけど、推薦が取れなかったから、この学校へ来た陸上部の期待の星。

 それを君は、ラインを引きながら、抜き去り1秒以上引き離したのを、皆が見ていた。抜かれた彼は、泣いていたから全力だったのよ。


 普人君。

 君の普通は異常。

 それを認めていないのは、自分だけなのよ。



 ともあれ、付き合う事になり、彼の「付き合い出したら、一緒に帰るものだろう」の一言で一緒に帰ることになった。


 彼曰く、手をつなぐのは、3日後だそうだ。

 変にそう宣言されると、余計緊張とかがすごいんですけど。

 1週間後から2週間の間に、親へ御挨拶に来るとまで、計画がされていた。


 それ以降は調査中だそうだ。

 あいまいな情報が多すぎて、その時のシチュエーションや、気分の盛り上がりで行う行動(主に肉体的なふれあい)が、少し理解がまだできていないと、珍しくぼやいていた。


 彼の隣に立ち、隣にいることを意識すると、皆と話していたときに出た話題。自分が、相手に見合うのかと言う言葉が、プレッシャーとなってやって来る。


 彼と、付き合うだけの魅力や能力があるのか。

 付き合ってくれる相手として選んだのが、なぜ自分なのか。不安だわ。それこそ流れだけで、受けてくれた気がして、しようがないの。


 あれから後。すれ違いざまに、嫌味を言う子が増えたし。仲の良かった子も、幾人か離れて行っちゃたの。


 でもね。

 些細なことが気にならないくらい、私は舞い上がっていたの。

 手を繋いだ日なんか。

 帰った瞬間。お母さんに引かれる位。

 とんでもない笑顔をしていたみたい。

 後日、それを言われて、信じられなかったわ。



 初の休日には、デートをして。

 待ち合わせに来た私服の彼は、黒スキニーパンツに白シャツのスタンダードな感じにまとめていた。私も、頑張ってネイビーのショートパンツを履いて、かわいい感じに仕上げてきたわよ。


 映画に行く予定だけれど、まだ私の趣味が分からないからと、複合店のシネマに来た。何を見るか2人で悩んだけれど、人気のアニメ作品を選んだ。


 その時に、

「もっと、お互いの事を知らなきゃいけないね」

 私が言うと、

「そうだね」

 彼も賛同してくれた。


 すこしエッチな、異世界もののアニメだったけれど、面白かった。

 初めてのデートで、この選択?とも思ったけれど、盛り上がれそうだったから、良いの。


 彼は途中で「そうなのか……」とかつぶやいていたので、あまりこのジャンルは見ないのかもしれない。


 少し遅めのお昼になったし、お金もあまりないので、バーガー屋さんに入った。

 セットをお互いに注文して、食べ比べしちゃった。


 その時に、気になっていたこと。

「映画を見ていたときにつぶやいた『そうなのか』は、なにに対してなの?」

 と、聞くと。

「物語中にあった。ハーレム願望について、やきもちを焼かないのかという所で、少し引っかかった」

 と言っていた。


 自分に置き換えて、いくら仲のいい友人だとしても、彼女を共有するのは無理だと言う事らしい。


 独占欲があって、やきもちを焼くんだと。

 そう理解して、私は少しうれしくなっちゃった。



 そして、運命の月曜日。


 普通に、授業を受ける。


 放課後になり、一緒に帰っている途中、

「この週末。家へ伺っても、いいかな?」

 予定していた、親への挨拶。


「うん、大丈夫」

「じゃあ、10時頃には、うかがうから」

「分かった。親に言っておくね」

「ありがとう」


 こういう所も。

 きちっとしてるのね。すこし幸せな気分。

「でもね。ぼちぼち名前で呼んでほしいな。だめ?」


 彼は、珍しく少し焦り、

「……まだ少し。照れくさいから」

 と、だけ答えてくれた。



 その時。普人は珍しく焦っていた。


 ……委員長の苗字?……確か、高橋だ。

 じゃあ、名前。……名前?……えーと?


 一応。まだ照れくさいと、ごまかしたが、いつまでもは無理だ。


 彼氏としては、決して許されない事じゃないだろうか?

 速やかに、さらっと情報を集めよう。


 もう少しで、帰り道が別れる交差点。

 今日の所は、どうしようもない。


 信号が青に変わるまで待って、つないでいた手を放す。


 ここは家の方向が違うため、いつも別れる交差点。


 彼女が横断歩道を歩き始め、途中で、こちらへ向き直り。

 微笑みながら、手を小さく振る。


 俺も、それに返し、小さく手を振る。


 それを見て、彼女は向き直り。

 歩き始める。




 まさか。

 ……それが、彼女の笑顔を見る。

 最後になるとは、思っていなかった……。




 ふと、後ろが騒がしいことに気が付き、振り返る。


 すでにすぐ目の前に、なぜか車のバンパーが迫って来ていた。


 なすすべなく押され。

 背中側には、すぐにガードレール。

 あたったのだろう。背中が何かにあたった感覚が来た。でも車は止まらず。

 ……俺の意識は、そこで途切れた。

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