第23話

 身体はこわばり、心臓が跳ねる。


 過去の出来事が走馬灯のように脳を駆け巡った。


 ヴィクトリアはぎこちなく振り向いた。


 そこには、記憶より幼い義弟の姿があった。


 眩しい日差しの中で、色素の薄い髪がきらきらと輝いている。



 ああ、本物のレティスだ。



 ヴィクトリアは、ぼんやりとこちらに向かって歩いてくる義弟を見つめていた。


 近づいてきたレティスは、ヴィクトリアの肩に置かれたレイモンドの手を見て顔をしかめる。


「姉に軽々しく触らないでもらえるか」

「あ、ああ」


 睨まれたレイモンドは、おとなしく手を下ろす。

 そして、面白そうにヴィクトリアとレティスの顔を交互に見比べた。


「レティス! お前は知ってたのか? ヴィーがこの学校に編入したことってこと」


 ユリウスがレティスに声をかける。


「ああ、母さんから手紙が届いた。姉さんをよろしくって」

「知ってたなら、なんで俺には言わないんだよ! 知ってたら、もっと早くヴィーに会いに行ったのに」

「だから言わなかった」

「なんでだよ! 今偶然会わなかったら知らないままだったぞ!」

「別に問題ないだろ」

「問題大ありだわ!」


 レティスとユリウスの言い合いをヴィクトリアは目をぱちぱちさせながら眺めていた。


 これまで、義弟がこんな風に友人と話すところを見たことがなかったのだ。

 家ではいつもおとなしく、あまり感情を表に出さないのだから。


「あー、おぼっちゃん方。俺ら、もう行ってもいいか? 課題が山積みで忙しいんだ。な、ヴィー?」


 レイモンドが二人の会話に口をはさむ。

 そして、ヴィクトリアの腰に手を回し、レティスとユリウスの殺気立った視線を受け止めながら、にやりと笑った。


「え?ええ。そうね」


 ヴィクトリアは頷きなから答える。


 レティスと話をするのは大事なミッションだが、とりあえず今はシェーティベリ先生の課題を終わらせなければ。


 入学早々に問題を起こしてしまうのは困る。


「レティス、ユリウス。またね。街に遊びに行くのはいいけど、気を付けるのよ」

「いや、俺らは遊びに行くわけじゃ……。ヴィーこそ、十分気を付けるんだよ!」


 ユリウスの悲鳴のような声を背に、ヴィクトリアたちは図書室へ向かった。

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公爵令嬢はヤンデレ義弟を躾け直したい みみこ @Mimiko_Mimiko

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