第17話

「わ、わ!」


 初めて見るダンジョンの入り口は、まるで巨大な獣が、がばりと口を開けて獲物を待っているような、そんな雰囲気だった。獣のうめき声のような風の音も相まって圧倒される。

 ヴィクトリアは身震いをし、一派後ろに下がった。


「なんだ、おまえも一緒かよ」


 背後から暢気な声が聞こえて振り返ると、今朝の意地悪な道案内人とロイドが立っていた。


「あなた!」

「まさか、同じクラスだったとはなぁ。足引っ張るなよ、お嬢さん」

「ふふ。今朝は助けてくれてありがとう。精一杯頑張るわ」


 どうやらこの三人が同じチームらしい。


 初めての授業で、いきなり不気味な場所に飛ばされて驚きと不安の連続だったところだ。

 “案外いい人”な、この男の口の悪さもかわいく思える。


「はぁ? なんだ、こいつ」


 男は怪訝そうに眉をひそめた。


「私はヴィクトリア・フォーベルマン。あなたの名前を聞いても?」

「え、ああ。レイモンド・ルリロエール」

「レイモンド様。今日はよろしくお願いいたします」

「様なんて、尻がかゆくなるもんつけるな。レイでいい」

「では、私のこともヴィーと」


 話しながら、ヴィクトリアは思考を巡らせた。


 レイモンド・ルリロエール、聞いたことのない名だった。

 ルリロエールという姓は、リュクス皇国では珍しい。むしろ隣国オーソン王国に多い姓だったはず。

 それに、彼の明るい茶髪に浅黒い肌。射貫くような鋭い緑の目。緑色の目はオーソン王国出身者に多いと聞く。

 レイモンドは、オーソン王国からの留学生というところか。


 オーソン王国は、リュクス皇国の南隣に位置する国だ。

 隣国同士であるから、もちろん文化的交流はあるが、実のところあまり友好的ではない。

 更に言えば、“例のあの事件”以来、国交は断絶したと言ってもいい。

 あの事件を再び起こさないために、レイモンドと協力することはできないだろうか。


 会話の中でそこまで考えた時、しばらく二人を眺めていたロイドが声を上げた。


「時間がない。雑談はそのくらいにして、早くダンジョンに入りましょう」


 言い終わると、二人に背を向けすたすたと入口に向かって歩き出す。


「ええ、そうしましょう」


 ロイドに続いてヴィクトリアが、その後ろから首をかしげ頭を掻いたレイモンドが、岩石の中に入っていった。


「……なんか調子狂うぜ」


 ダンジョンに入る間際のレイモンドのその呟きは、砂嵐にかき消された。

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