第18話

 ダンジョンの内部は真っ暗だった。


 自分たち以外の人の気配もない。 


 この岩石の内部は、ほかのクラスメイトの気配を消すほどに広いということか、それとも訓練のためにこの岩石にかけられた魔法の効果によるものなのか、ヴィクトリアには判断がつかなかった。


 耳を澄ませても、時折吹き抜ける風があげる咆哮以外の音は、この暗闇に吸い込まれているかのようでとても静かだ。


 先陣を切るロイドの手のひらの上に魔法炎が焚かれ、彼らの周囲だけはほのかに明るさを保っている。


 ヴィクトリアとレイモンドの二人は魔法炎を使わず、いざというときに備えるため、魔力を温存しておくことになった。

 保有量に個人差はあれど、魔力は無尽蔵ではないのだ。


「お二人は、ここには何度かいらしているの?」


 ヴィクトリアが尋ねた。


「いや」レイモンドが答える。

「第一訓練場が使えるのは二年次になってからだからな。今回で2回目だ」

「そうですね。ただ、ここの内部の地図は図書室の書物の中で公開されていますから、全体像は分かります」


 ロイドが付け加えた。


「今日は祝福の花を見つけるのがミッションよね。祝福の花といえば、眠り薬の原材料で、日陰で風通しのいい、断崖絶壁に咲いていると言われているけれど、こんな洞窟の中に崖なんてあるのかしら」

「地図によれば、このダンジョンの中には5か所の岩谷があるとされています。そこに行ってみましょう」

「ああ。ただ、前回と比べると今日はやけに静かなのが気になるな。前回は早々にモンスターが何匹も出てきやがったっていうのに、今日は全くその気配がねえ」

「同感です。シェーティベリ先生が訓練内容を変えたと考えるのが妥当な気がしますが、前回の訓練ではほとんどのチームがモンスターを倒せず、ミッションを達成できませんでした。あの先生の性格からして、この段階で訓練内容を変更するとは、どうも……」


「おかしい。見ろよ、これ。モンスターどもの足跡に交じって、妙な痕跡がある。まだ新しいぜ」


 レイモンドが魔法炎を灯し、足元を照らした。


「これは、車輪の跡よね」


 湿った土の上には、大小のモンスターと思われる足跡とともに、轍の跡がくっきりと残っている。


「ああ。でも、こんな場所を馬車が通るはずがねえ」

「馬車にしては左右の轍の間隔が狭く、跡が深いですね。ずいぶんと重たいものを運んだようだ。それも何台も通っています。いや、何度も往復したのか……」

「いったいどこに向かっている?」

「この先は崖です。つり橋はありますが、人が通るのがやっとで、馬車などは通れません」

「とりあえず、行ってみるか」

「ええ」


 3人は、慎重に歩みを進めた。

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