第15話

「フォーベルマンさん、よろしくね。あたし、アンティリッド・セイラー。アンって呼んで。こっちはエリノア・カルローザ。エリーだよ。このクラスで女子はあたしたち3人。仲良くしましょ」

「ええ。よろしく。アン、エリー」

「よ、よろしく、です」


 ヴィクトリアの席は後ろから2番目の窓際という何とも素晴らしい場所だった。

 HRが終わるとすぐに、アンとエリーがヴィクトリアの席へやってきた。


 アンはブルーの髪の勝気そうな少女だった。

 ヴィクトリアは、セイラーという姓は一度も聞き覚えがなかった。貴族社会の人間関係は頭に叩き込まれていたので、聞き覚えがないということは、彼女は平民なのだろう。


 もう一人の少女は聞き覚えがあった。


 エリノア・カルローザ。


 この国では非常に珍しい黒髪に黒い瞳の伏し目がちな美しい少女。レティスの家族が亡くなったあの事件に深く関わっていたとされている。

 あの事件の後姿を消し、逃げたとも死んだとも噂されていたが、本当のところはよく分からないままだ。


 ヴィクトリアは、唐突にあの事件の関係者が現れたことで内心穏やかではなかったが、かの皇妃教育のおかげで顔に出さずに済んだ。


「あなたってあのフォーベルマン家のご令嬢よね? 学校に通うなんてよくご両親がお許しになったわね」

「両親はもちろん大反対よ。でも、どうしてもこの学校に通いたくて家を飛び出してきてしまったの」

「まあ、すごいわ。あたし、そういう方大好きよ! ヴィー様と呼んでもいいかしら?」

「ええ、うれしいわ。エリーもよければヴィーと呼んでくださる?」

「は、はい。ヴィー、様」


 エリーがおどおどしながら一歩下がった拍子に、後ろの席の机にぶつかり、積み上げてあった本がばらばらと床に落ちた。


「ロ、ロイド様。ごめんなさい」

「いいえ。あなたこそ大丈夫ですか?」

「は、はい」


 ヴィクトリアの後ろの席はロイドの席なのだ。ロイドはゆっくりと立ち上がり、本を拾う。一緒に本を拾いながら、アンがヴィクトリアにささやいた。


「エリーはね。ロイド様のことが好きみたいなのよ」


 ヴィクトリアが返事をしようとしたちょうどその時、始業のベルが鳴り皆慌てて自分の席に戻っていった。

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