第14話

「マクドウェル様。お呼びだてしてしまって申し訳ありません」

「責務ですから」

「それでも、ありがとうございます」


 ロイドはちらりとヴィクトリアをみて軽く会釈をしたあと、またすぐにまっすぐ前に向いた。


 ヴィクトリアはまだ本格的な社交界デビューをしていないから、ロイドとは初対面である。しかし、貴族社会には噂話はつきもので、このロイドのことはもちろん知っている。父であるマクドウェル伯爵とともに、有名だからだ。


 ロイドの父であるマクドウェル伯爵は辺境のレミーダ地区を統治している。もともとレミーダはさびれた小さな港町だったが、マクドウェル伯爵が統治するようになってからというもの以前とは比べ物にならないほど繫栄した。ゆえにそれをねたむ者たちが成り上がりだのなんだのと陰口を叩いていたり、まことしやかな黒い噂が流れていたりしている。


 ヴィクトリアは隣を歩くロイドを盗み見た。


 ロイドは見事な銀髪を緩く後ろで束ねた、冷たい印象を与える顔立ちの美形である。更に得意魔法が氷を使ったものということもあって、社交界デビューをした後は、白銀の貴公子と呼ばれるようになるが、今はなんとなく陰のある寂し気な少年という印象だ。


「着きました。2-Aです」


 校長室から2階分降りたところの一室が2-Aの教室だった。


 魔法士養成コースは3年次までで各学年2クラスづつ、1クラスは約15名程度生徒がいる。ヴィクトリアはその2年次に編入したのだ。ちなみに騎士養成コースは3年次までで各学年8クラスある。それだけ魔法士養成コースは狭き門なのである。


「フォーベルマンはこちらへ。マクドウェルは席に就け」


 室内に入ると、すでにHRは始まっていて、教壇に立っていた眼鏡をかけた神経質そうな女がそう指示をした。


「ヴィクトリア・フォーベルマンだな。私は担任のレーナハルド・シェーティベリ。主に防衛魔法を教えている。ここでは、みな平等に学ぶ権利を持つ。ゆえに身分の差は存在しない。お前が平民だろうが、侯爵令嬢だろうが、優遇はしないからそのつもりで。わかったら、皆に自己紹介をしろ」


 シェーティベリ先生は、顎を少し上げて腰に手を当てながら、ヴィクトリアに言った。そのポーズをすると大き目の黒いローブを羽織っていてもわかるほどのグラマーな体つきがむき出しになった。


 ヴィクトリアは何となく自分の寂しい胸元を見下ろしたが、すぐに我に返り、慌てて自己紹介をして席に着いた。

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