第6話
ヴィクトリアは、ドアの外の喧騒で目が覚めた。昨日、興奮して大暴れしたからか、疲れてレティスの腕の中でぐっすりと眠りこけてしまった。窓の外はもう明るく、当然、隣にはすでに誰もいなかった。ベッドから体を起こし、さっと身なりを整える。
ばん!
何かを破壊するような物音とともに、乱暴にドアが開かれた。
この騒々しさは、レティスではない。レティスの結界を解いて入ってきたとなると、相当な魔力の持ち主だ。緊張が走った。
無遠慮に入ってきた人物は、軍服の男が2人。そしてその後ろからは、フードを目深にかぶった小柄な女性が歩いてくるのが見えた。
「何事ですか」
ヴィクトリアは精一杯冷静を装い対応した。睨み合うこと一瞬、軍服の男のうちの一人が血相を変えて前に進み出た。
「ヴィー!? ヴィーなのか!?」
唐突に愛称を呼ばれて、ぎょっとして目を見開いた。その呼び名で呼んでくれる人はこの世でもう一人しかいない。なつかしい顔がそこにはあった。
「え? ユリウス?」
「ヴィー! 本当に!? 生きてたのか!」
「ユリウスなの? どうしてここに?」
ユリウス・リッチモンド。ヴィクトリアの幼馴染で、リッチモンド侯爵家の跡取り息子だ。公爵令嬢であるヴィクトリアは、頻繁に夜会に出席する必要があったが、いつもそのエスコート役を買って出てくれていたのがユリウスだった。栗毛色の髪に温厚な性格の彼は、夜会では男女問わず人気者だった。
ユリウスにぎゅうぎゅうと抱きしめられながら、ヴィクトリアは茫然としていた。
「俺、俺、お前が死んだなんて信じられなかった。絶対どこかで生きてるって信じてたよ。奇跡だ。こうしてまた会えるなんて」
「ユリウス」
ヴィクトリアが話しかけようとすると、それを遮る冷たい声が響いた。
「感動の再会はそこまでにしてもらおうかしら。ユリウス」
ユリウスはハッとして、ヴィクトリアをやさしく手放し、叩頭する。もう一人の軍人の後ろにたたずんでいた女性がゆっくりと前に進み出て、フードを外した。
「こんにちは、ヴィクトリア様。まさか、ヴィクトリア様とこんなところでお会いするなんて驚きましたわ。ここにいるのは、てっきりどこの馬の骨とも知れない娼婦だとばかり」
「エザベラ皇女」
ヴィクトリアは、とっさにつぶやき、ユリウスの隣で跪いた。しかし、すぐに皇女に蹴り飛ばされ、耐えきれず床に倒れこむ。
「エザベラ様!」
ユリウスの悲鳴のような声が響く。
「ふん。よくもまあ、私の夫をたぶらかしてくれたわね。そうやって床に這いつくばっているのがお似合いだわ。この汚らわしい売女!」
「エザベラ皇女、私……」
「あの人なら来ないわよ。今頃は陛下と謁見中なの。結界が破られたと気づいても、どうすることもできないわ。いい気味よね。……あんたたち、この女を連れて行きなさい!」
「エザベラ様! お待ちを! この方は、フォーベルマン公爵の姉君です。少しお話を……!」
「ユリウス、その女をかばうならあんたも牢にぶち込むわよ! ロイド、何度も言わせないで。さっさと連れて行きなさい!」
ロイドと呼ばれた男は、無表情でヴィクトリアに近づいてきた。
ロイド・マクドウェル伯爵。ヴィクトリアも名前は聞いたことがある。とても優秀で若くして爵位を継いだ、別名、白銀の貴公子。
「エザベラ様! ロイド!」
ユリウスの抵抗も、ロイドによってあっけなく退けられた。ヴィクトリアはとらえられ、そのまま王城の地下牢へと繋がれてしまった。
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