第10話 ゆるめの作戦会議

「え? じゃあ、常連のお客さん達があの店に立ち寄らなくなったのって、マルクさんが望んだ事なんですか!?」


 葬儀屋に戻ったイシスが彼らに先程の話を伝えると、ルビーは驚いた声を上げた。


「そうなるね」


 ルビーは「そんなくだらないプライド!」と吐き捨てる。


「おい。アクアちゃんもこの場にいる事、忘れるなよ」


 ラピスに指摘され、「あっ」と口元を押さえる。幸いアクアは父親のお弁当に夢中で、聞いていないようだった。


「美味しい?」

「うん! だいすきな おとうさんのあじ!」


 イシスは、マルクからお礼にと貰ったお弁当を迷わずアクアに渡した。アクアは久々に食べる父親の味が嬉しいのか、先程からずっと自分の世界にいる。


「にしても、店長にはほんと驚かされますよ。最初あれだけ門前払いだったのに、今度はお土産貰うまで仲良くなっちゃうなんて」

「だから言ったでしょ。私に任せてって」

「たまに無計画で突っ込むから、信用出来ないんですよ」

「失礼な! 私はいつも考えて行動してるって!」


 最初の門前払いも計画の内だとイシスは胸を張る。

 一度相手の要求を断ると、その罪悪感から2度目の要求は受け入れやすいという心理を利用した作戦だったと彼女は主張するが、実際のところはただの後付けだろうとラピスは睨んでいる。


「で? そんな"いつも考えて行動してるイシスさん"は、次はどう考えているんですか?」

「言い方がいちいち嫌味ったらしいんだよな」


 イシスは少し不機嫌そうにラピスを見る。


「はいはい。夫婦喧嘩は後にしてもらって、先に進めてもらっていいですか?」

「だから夫婦じゃな! ……って、こういう会話が1番無駄なんだよ、もう」


 イシスはコホンと1つ咳払いをすると、気を取り直して話を進めた。


「マルクさんに『うん』と言わせるには、やっぱりアクアちゃんが動くしかないと思うんだよね」


 2人はわかりやすく大きくため息をつく。


「あれだけ時間使って結局その結論に戻りますか」

「これまでの時間返してって感じです」


 イシスは2人の反応に口を尖らせる。


「違うってぇー。朝2人が言ったのとは意味が違うんだよぉー」

「「何がどう違うと?」」


 じっとりと疑いの目を向ける2人に、イシスは気付かないふりをして続ける。


「マルクさんは今アクアちゃんが何を言っても、きっと聞く耳持たないと思うんだよ。全部1人でなんとかしようとしてるし。だから、アクアちゃんにはお父さんを説得するんじゃなくて、助けてあげて欲しいんだよね」

「助ける?」

「そう。困った時に頼りになるのは、やっぱり家族なんだよ」


 イシスは「ね!」とアクアの方を見ると、口元にソースをべっとりと付けた顔で、元気良く「うん!」と返事した。


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