第8話 一致団結?

 イシスも当時の事を思い出し、今一度彼女の冥福を祈る。


「ミレおばさん すっごくきれいで しあわせそうだった。だからね おかあさんにも してあげたいなって おもったんだ」


 アクアは、目を輝かせて言う。


「もうここまで来たら、私もアクアちゃんのために絶対カンナさんの葬儀をしてあげたいって思って来ましたよ!」

「そうですね。そのためにはマルクさんの説得が最優先です」


 ミレイユの葬儀を思い出したのか、ラピス達も気持ちは完全にやる方向に傾いていた。


「それならやっぱりアクアちゃんがお父さんを説得するのが1番効果的だと思うんですよ」

「そうですね。それが最善でしょう」


 2人はさっきまでが嘘のようにやる気に満ち溢れていた。

 だが、アクアは首を横に振り、今にも泣きそうな顔で答えた。


「むりだと おもう。おとうさんが おみせにも くるなって。アクア いうこと きかないから おとうさん アクアのこと きらいに なっちゃったのかなぁ?」


 アクアは目に涙をためて、縋るようにルビーを見つめた。


「そんな事ないよ!! お父さんはアクアちゃんの事大好きだよ!! そうじゃなきゃあんなに心配しないよ!!」


 ルビーが必死にマルクの想いを伝えると、アクアは「ほんと?」と安心したように落ち着いた。3人は一先ずホッと胸を撫で下ろす。


 どうやらあの日以来、アクアは父親に会えていないようだった。


 マルクはカンナの死をきっかけに、娘を両親に預け、離れて暮らす決心をした。

 たとえ娘と会えなくなったとしても、娘が安全でいる事を優先した。


 マルクは、娘に会えない寂しさを埋めるかのように働き続けた。料理だけでなく、ホールも皿洗いも全て1人でこなし、朝から晩まで寝る間も惜しんでひたすらに働いた。


 イシスが彼の店に行った時も、朝一の開店前の時間帯を見計らって行ったつもりだったのに、マルクは直前までその日の仕込みに追われていた。


「じゃあもうどうしたら……」


 2人は途方に暮れる。アクアも申し訳なさそうに俯いた。


「大丈夫! 私に任せて! 私が説得してくる!」


 見兼ねてイシスが自信満々にそう宣言すると、2人は蔑んだ目を彼女に向けた。


「ついさっき撃沈した人がよく言えましたね……」

「わかってます? 追い出されたの、大分前の話じゃないですよ? ついさっきの出来事ですよ?」

「わかってるって! 今度は出禁覚悟で行くから!」

「いや、そんな覚悟持たないでください!」


 ラピスとルビーは必死になって止めたが、イシスは「大丈夫! なんとかなるから!」の一点張りで、ついには2人も「ダメだ、こうなったらもうやるまで止まらないわ」と説得を諦めた。


「じゃ、行ってくるから! 待ってて!」


 ラピスとルビーは全く心のこもっていない「いってらっしゃーい」を送ると、イシスは笑顔で手を振って店を出た。


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