第10話 義妹よ。どうしたんだ。


 俺はいつものようにドアを開けて家を出る。

 すると、最近では当たり前のようにいる夏樹が今日も待っていて俺に挨拶をしようとして。


「お、おはよう。今日も一緒に_____ってどうしたの!? なんで、翼そんなにすり寄ってるの!?」


 盛大にコケていた。……ただし、これに関しては俺も動揺しているので仕方がないことだと思う。


「……夏樹ちゃんこんにちわ。……でも、今日は私がお兄ちゃんの隣を歩くから」


 そう言って俺の腕に自分の腕を絡ませてまるで恋人のようなことをしている翼を見て思う。翼、お前までどうしたというんだ。

 時間はちょっとだけ遡る。



 *


 それは朝俺が起きた時のことであった。

 俺が階段を下りリビングへと向かうとリビングでは翼がソファに座ってくつろいでいた。


「おはよう」

「……おはよう、お兄ちゃん」


 少し笑顔を見せてくれる翼。基本的に無愛想な翼ではあるがいつも挨拶をするとこうして少し笑顔を見せてくれる。最近では、笑顔も増えてきた気がする。


 しかし、翼は何故かつぎの瞬間自分のほっぺをパチンと叩いた。まるで、自分に勇気を出させるがごとく。


「お、おい翼? どうした?」

「……なん、でもない。……それよりお兄ちゃん」

「どうした?」


 そこでキュッと目をつぶってしまう翼。なにか言いたそうだが?


「……今日、お兄ちゃんと一緒に登校しちゃ駄目かな?」

「えっ!?」


 そう言うと目を伏せてしまう翼。少し、体が震えていた。


「っていやいや、お前俺と一緒の高校じゃないだろ」


 翼は確かに俺と同学年であるが高校は異なるのだ。翼は女子校に通っており、俺は男女共学の進学校に通っている。正直、一緒に行く意味が分からない。のだが。


「……駄目なの?」

「うっ!」


 潤んだ瞳でこちらを見つめてくる翼に罪悪感が生まれる。こういう時兄は弱いのだと改めて痛感する。いや、一応義兄だけどさ。

 でも、兄というものは少なからずシスコンである為妹の懇願に弱い傾向があると思う。


「別に構わないけど」

「良かった。……嬉しいな」


 いつもは滅多に人には見せない満面の笑みの妹を見て、まぁ別にいいかと思ってしまうくらいには俺もシスコンなのだから。


 *


 というわけで何故か俺と一緒に登校をする翼なのだが。いかんせ近い。

 その距離たるやゼロセンチ、くっついているのだ。

 いくら、妹とは言え同学年の女子でもあるのだ。少しくらい遠慮というものを覚えた方がいい気がしなくもないが……幸せそうだしいいかって思ってしまう俺はやはり、もう駄目なのかもしれない。


 しかし、もっと困った問題が発生していた。


「ふーん、ラブラブで良いことですね。別に気にしてませんけどふーん。へぇ、そうですか。ふーん」


 夏樹がとてつもなく不機嫌なのだ。その、不機嫌さたるやすれ違う人が夏樹を見るたび逃げ帰っていくほど。(何人かは焦りすぎて電柱にぶつかっていたが大丈夫だろうか?)


 まぁ、ぶっちゃけ当然と言えば当然だ。夏樹は俺のことが嫌いなのだ。俺と一緒にいて不機嫌でなかった最近がおかしかったのだ。

 しかし、自分から誘っておいてそれはどうなんだろう?


 まぁ、なんかいつもとは怒り方が少し異なる気がしなくもないが……。


「……お兄ちゃん、お兄ちゃん。一緒に登校できて嬉しい。……だから、私から離れないでね」

「うん、分かったけど……少し離れた方がいいような。だって、お前注目浴びるのとか苦手だろ? しかも、ウチは男子もいるから……お前男子苦手だろ? だからさぁ、流石にこんなにくっついていたら目立つからやめた方が」


 そう、翼は極度の人見知りである。初対面の人とは全く会話など出来はしないし人に注目を浴びるのも苦手。まぁ、本人の容姿的にどうしても注目は集まってしまうが……。

 そして、中学高校と女子校できている為男子が苦手。声でもかけられたりしたら逃げ出してしまうだろう。


 だから、俺的にはこんなにくっついてたら元々目立つ容姿の翼は更に目立ってしまうし……変に注目を浴びて倒れたりしてしまわないか、とてつもなく心配なわけだが。


「……フフ、大丈夫だよお兄ちゃん。……成長した私を見せてあげる」


 ちょっと自慢げな翼につい自然と笑みが溢れる。


「……あっ、お兄ちゃん笑ったひどい!」

「ごめん、ごめんつい嬉しくて」

「……もう」


 しかし、そんな俺達を見て夏樹がとてつもなく目を細めている。


「ふーん、お2人ともいつも以上に仲がいいね。……今日から、新田のことシスコン野郎って呼ぼうかな」

「「(……)いつも通りだ」」

「なんでよ!」


 これぞ夏樹!という感じだった。俺の嫌がらせをトコトンし俺も夏樹に対して対抗する。これが本来の俺達のあり方である少し安心してしまった。……でも、その呼び方を広めるのはやめて欲しいんだがな。


 とそんなことをしていると後ろから声が聞こえてきた。


「おーい、翠〜」


 この声……駿太か? だとしたら、まずくないか? 翼は男子が苦手だ。話しかけられたりでもしたら……と心配になった俺だが、すぐ横の翼が少し不恰好なウィンクをしてくる。


 うん、両目閉じちゃってるからそれはウィンクじゃないだろと思ったが、本人が満足げなのでスルーをすることにした。(ダジャレではありません)


 まさか、任せてみろと? 「成長を見せくれるわ、はあっはっはっは!」ということなのか?


 だとしたら、兄として妹の成長を邪魔するわけにはいかない。翼に任せるべきだろう。


「って翠? お前にひっついてるの誰?」


 早速翼に気がつく駿太。まぁ、そりゃこんだけ目立つ容姿の子に気がつかないわけがないよね。すると、翼が俺から少し離れると駿太と向かい合う。


 ……まさか、「はじめましてよろしく」とか言うのか? あの男子が苦手で人見知りな翼が? だとしたら、これはすごいことだ。俺は緊張の面持ちで様子を見守る。


「あれ? この子めちゃくちゃ可愛くね?」

「……」


 黙っている翼。しかし、何かを決意した顔。まさか……本当に挨拶できるのか?


「……やっぱり無理でしゅ」


 そう言うと再び俺の元へと来て俺の腕に掴まり震えてしまった。いや、出来へんのかい!

 そんな翼を見て駿太が驚愕の表情をしている。


「えっ!? なに、その子もしかしてお前の彼女?」


 それは違う。義妹だ。と俺が言おうとしたが翼に口を塞がれてしまう。

 どうしたんだ、モゴモゴ。なんで、両目ウィンクしてくるだ、モゴモゴ。まさか、今度こそ言ってくるからということか、モゴモゴ。



 翼は再び俺から離れると駿太と向かい合う。

 そして、


「……その辺はご想像にお任せします」


 と言って俺に抱きついてきたのだった。

 ちょっ、おい、当たってるから。何がとは言わないけど! あと、夏樹はなんでそんなに不機嫌そうなの!? 俺が妹とはいえ女子と戯れているのはそんなにウザいですか?


 おい、あと駿太!何目から血流してんだ。別にそういう関係じゃないから勘違いすんなよ!


 全く、素直に「義妹です」って言えばいいのになんで含みを持たせるんだよ。

 でも、勇気を出して男と喋った翼をつい、よしよしと撫でてしまうと。


 夏樹の不機嫌さが更に増すのだった。なんで? ってか、夏樹の周りの雑草とかが死滅していくんだけど? なに、どんだけヤベエオーラでてんの?


 あと、駿太! なにスマホ使ってんの? まさか、クラスラインに報告するつもりか!?

 まぁ、勘違いだからいいけど。



 しかし、翼はそんな駿太を見ると満足げに笑うのだった。本当にどうしたんだよ!



 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→


次回は義妹ちゃん視点


 どうか、星をくだせぇ(うん、口調直そうか)もしかしたら、更新が早くなるかもです。

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