第8話 あの日
一目惚れなんてものが現実にあるわけがないと思っていた。所詮、マンガや小説の中だけのまがい物だと。……でも、あの日俺は名前も知らない少女に恋をした。
なにがと聞かれれば全部だ。一瞬で心の全てを持っていかれた。
今まで恋などをしたことなどなかった俺にとって心臓がキュッとしまるような感覚や、考えるたびに胸が熱くなるような感覚は初めてで最初は病気も疑った。
でも、数日経った今ではわかっている。
俺は、きっと名前も知らないあの少女に恋をしたのだと……。
*
出会いは突然であった。俺がたまたま部活が早く終わったあの日、いつもなら寄らない本屋に寄り本を一冊買って帰った帰り道のことであった。
道を歩いていると非常に耳に残るうざったい声が聞こえてきた。ふと、顔を上げてみると前では銀髪(?)の少女が3人の男達に囲まれていた。男達の口調から察するにナンパかなにかだろうな。
まぁ、それほど心配することでもない。もし、様子が険悪になったりすれば俺が警察を呼んでやればいい。そう、思い俺は少し電柱に身を潜めて様子を見守ることにした。
一応、何かあった時の為にいつでも電話はかけれるようにしながら。
そもそも、俺は小説などに出てくるようなヒーローなどではない。女子がナンパ野郎に囲まれていても前にでていって庇うようなことはしない。俺は全ての人を助けるような善人ではないからだ。やれることなら自分で乗り切って欲しい。
断言しよう。俺は、他人の為に犠牲になれるようなヒーローではない。結局、自分が可愛いだけのモブなのだ、
しかし様子が次第に変になり始めた。男達がイラつき始めたのだ。遂にハサミまで取り出し始めた。俺はこれはマズイと警察に電話をかけようとした時だった。
「私のことをいくら馬鹿にしても構わない」
「あん?」
今まで、特に発言をすることがなかった銀髪の少女が怒った声でハサミを持った男達に向かって顔を上げ叫んだ。
「でも……おじいちゃんから受け継いだこの髪の毛を馬鹿にするのだけは許せない。あんたらなんかにこの髪を侮辱する権利はない。
ゴミなんかじゃない。今すぐに訂正しろ」
きっとこんな事を言えば男達が何をするか分かってないわけではないのだろう。
でも、少女はそれ以上に自慢の髪の毛を……いや、自慢のおじいちゃんを馬鹿にされることに耐えられなかったのだろう。
果たして俺が男達3人に囲まれてハサミを持っている相手に対してあんなことが出来るだろうか? 自分の大切なものの誇りを守れるのだろうか? なりたい。俺もあんな風に。
気がつくと俺は男達の前に立ち塞がり男の拳を掴んでいた。
そこからのことはあまり良く覚えていない。
俺は怒っていた。こんなにもカッコいい少女に手を出そうとした男達に。……ただ、隠れていた俺自身に。
気がつくと俺は名前も知らない少女を連れ出し男達を撒いていた。
目の前には、芸術のような美しい銀髪に水色の透き通るような綺麗な瞳をした少女が立っていた。思わず「綺麗」と漏れそうになるがそれでは先程のナンパ野郎どもと変わらない。
それに先程のことでショックを受けているだろうから思い出させるようなことをしたくなく慌てて飲み込んだ。そして、それよりも。
「大丈夫? どこか怪我をしてないか?」
少女の怪我の方が心配だった。いくら、心に1つの誇りを持ち強く美しい精神だったとしても体までとはいかないだろう。しかし、俺の問いかけに慌てながらも少女は答えた。
「だ、大丈夫。それよりも助けてくれてありがとう」
うつむいていた少女は顔を上げて俺に精一杯の感謝を伝えてきた。とびっきりの笑顔で。
そして、その瞬間……俺は少女に恋をした。
目を奪われるとはこういうことかと理解した。
自分の中の大事な物を強く美しい心で守ろうとする態度に、怖かったはずなのにその素ぶりを見せようとせずにとびっきりの笑顔を向けくる少女に。名前も知らない少女に。
俺はあの日、人生で初めての恋をした。
だからこそ、自分の弱さが嫌になった。だから決めた。俺もあの少女のように強くなると。いつか出会えたら気持ちを伝えることが出来る男になれるように。
だから億が一、夏樹が俺を好きであったとしても付き合うことは絶対にない。
俺はあの少女に恋をしたのだから。
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こうして2人の両片思いなすれ違いストーリーが始まります。出来る限りなるべく早く更新するつもりなので応援お願いします。
星をくだせぇ。(だから、口調どうした?)
m(_ _)m 更新が少し早まるかもです。
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