第7話 好きな人


「まぁ、こんな所で立ち話っていうのも何だし。夏樹ちゃんも上がってて。翠も来るのよ?」

「ちょ、ことさん」


 お母さんに促されて夏樹がリビングへと引っ張られていってしまった。相変わらず元気な人だ。俺は少しため息をつくと夏樹とお母さんと翼がいるという普段ならあり得ることのないリビングへと足を進めるのだった。


 ……マジで気が重たい。


 *


「それで夏樹ちゃん。今日はなんでウチに?」

「……お義母さん、夏樹ちゃんはクッキーを作ってきたの。……多分、お兄ちゃんの為に」

「つ、翼!? 何を言ってるの? そ、そんなわけ」

「……だって、私にたまにお菓子をくれる時とかあんなに綺麗にラッピングしてないし」

「あらあら、まあまあ」

ことさんも勘違いしないでください! わ、私別に新田の為じゃ。……いや、それもありますけど」

「認めた!? 本当に今日の夏樹ちゃんは変ねぇ」

「そうでしょお義母さん」


 俺がリビングに入るとお母さんと翼が夏樹を囲んで話していた。入りづらい。あんな女子からみたいな所に入るの俺無理なんだけど。


「あっ、お兄ちゃん。お兄ちゃんもこっち来てよ」


 しかし、俺を見つけた翼に声をかけらてしまう。分かってくれよ翼。そんな女子会みたいな所に混ざるのキツイんだよ。


「に、に、新田なんでここに!?」

「いや、ここ俺の家だし」

「そ、そういえば」

「本当にお前大丈夫か?」


 俺は心配になってきたので夏樹に近寄って体調をチェックをしようとする。が……。


「近い、近い、近いって//」


 顔を真っ赤にした夏樹に近寄るな宣告をされてしまう。


「あの夏樹ちゃんが翠に対して怒鳴ったりしないなんて……」

「……ね、おかしいでしょ。……今のは殴っててもおかしくないのに顔を真っ赤にして断るだけなんて」

「そうね。……まさか」

「……お母さんも分かったの? でも、言わないでね。……ライバルが増えちゃ______夏樹ちゃんが可哀想だから」

「分かってるわよ、フフフ」


 お母さんが怪しい笑みをこちらに向けてくる。なんなんだ、なんでそんな不気味な笑みを。


「それで、翠。夏樹ちゃんが持ってきたクッキーを見せてよ」

「えっ、ああ」


 俺は先程夏樹からもらった袋を取り出した。

 中には、チョコやプレーンのクッキーが様々な形をして入っている。1つ1つのクッキーは大きく1つ1つ個包装されているのが気づかいが感じ取れた。


「あら、これはとても立派な」

「……絶対、普段の夏樹ちゃんがお兄ちゃんにあげるようなものじゃない」

「いえいえ、大したものでは」

「そうか? 結構時間がかかってると思うんだけど?」


 これだけ様々な形をしたクッキーを作って焼いて個包装までしてとてもそんな簡単なものではないと思うんだが?


「よし、じゃあ翠。早速、食べて感想をいってあげなさい」

「えっ!?」

「こ、こ、琴さん!? 何を!?」

「だって、夏樹ちゃんだって翠の為に作ったんだから直接感想もらいたわよね?」


 だから余り物なんだよ、お母さん。


「ふぇ//、新田からちよ、直接感想を」

「……本当に変ねぇ」

「……でしょ」

「分かった。そういうことなら」


 多分、俺の為ではないし俺が感想をいった所で嬉しくもなんともないと思うが……。


 そう言って俺は袋から1つのクッキーを取り出すと包みを丁寧にとってクッキーを手に持った。


「じゃあ、いただくな?」

「ど、どうぞ」

「やっぱお前変だぞ?」


 そこは「新田に食べられるクッキー……悲惨だわ」とか言うのが夏樹なんだけどな?


 まあ、それはともかく俺はクッキーを口元まで持ってくるとゆっくりとほおばった。

 食べてみるとクッキーが口いっぱいに広がっていく。ほどよい固さのクッキー。甘みの効いたしっかりとした味。

 俺はほどよく甘いものが大好きだ。まさしくこのクッキーはそれ。

 ……にしても、夏樹は苦いのが好きだったのになんでこんなクッキーを作ったのだろうか? 今日はたまたまかな?

 そしてこのクッキーの美味しさにやられた俺は。


「……これは、おいしいな」


 食べた瞬間に気づいたらそんな声が漏れていた。すると、夏樹が急に身を乗り出してきた。何故か顔を輝かせて。


「美味しい? 今、美味しいって言った?」

「な、なんだよ急に。美味しいよ」


 隠さず伝えることにする。夏樹が作ったものを褒めるなど嫌だがこのクッキーの美味しさは認めねばなるまい。美味しいのだ。


「そ、そう。……良かったぁ〜」

「なにが良かったんだ?」

「う、うっさい」


「……お義母さん。完全に私、ライバルが1人増えたんだけど」

「本当になにがあったのかしらねぇ」


 夏樹は俺の感想をその後、根掘り葉掘り聞くと満足したように帰っていってしまった。

 ……もしかして、今日のは今度誰かにあげるための練習だったのだろうか? だとしたら、俺に感想を求めるのはそういうことなのだろうか? つまり、相手も俺と同じ適度の甘党。


 と考察したわけだがそのことを翼に言ってみると「……お兄ちゃん。バカなの?」と言われてしまった。なんで?


 *


「にしても夏樹ちゃんがねぇ」

「あぁ、本当に不思議だよなぁ。あの態度」


 俺とお母さんが夏樹がいった後喋っているとお母さんがとんでもないことを言ってきた。


「もう翠、夏樹ちゃんと付き合っちゃえば?

 あんな可愛い子中々居ないわよ? 私、ここに来てからずっと可愛い子だなぁ、と思ってたけど翠とは仲良くないみたいだったし。言えなかったけど」

「……付き合う? 俺も夏樹もお互いにお互いが嫌いなのに?」

「えぇ〜、とてもそんな感じに見えなかったけどなぁ」

「だから、最近の夏樹が変なんだって。……それに」

「それに?」

「いや、なんでもない」

「あら、そう」


 俺はお母さんとの会話を終えると階段を上っていき自分の部屋に入るとベッドの上に転がりこんだ。


 そして考える。そもそも、夏樹は俺のことを好きではない。確かに、最近の夏樹はおかしいが俺を好きになったというわけではないだろう。そして、万が一、いや億が一夏樹が俺のことを好きであったとしても俺は付き合わないだろう。


 俺には恋をしている相手がいるのだから。




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 主人公の好きな人とは……?

 次回、主人公の回想で好きな人が明らかに。


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