第5話 義妹
新田
そんな翼とは1年ほど前に家族になった。元を辿ればお母さんが再婚をしたのだった。俺には物心がついた頃から父親はいなかった。
お母さんの話によれば父はお母さんが俺を産んですぐの頃、交通事故に遭い死んでしまったらしい。
父のことを気にして再婚を避けてきたお母さんもついに心惹かれる男性に出会った。
それが新田 翼の父で俺の義父でもある新田
俺はお母さんに感謝している。俺を女1人で見捨てることなく温かく愛情を注ぎ育ててくれた。だからこそ、お母さんには幸せになって欲しかっただから俺は二つ返事で了承した。
まあ、まさか再婚相手に同年代の女の子がいるとは思ってなかったけど……。まぁ、まさか再婚相手の家が夏樹の隣の家だとは思っていなかったけど。
今から、1年ほど前俺は新田 翼の義兄になり、夏樹のお隣さんになったのだった。今でも覚えているあの絶望感。いや、それは向こうも同じであったか。
お隣に挨拶にいくと出迎えてくれたのは夏樹であった。お互い一瞬で喧嘩になったのは当然の流れであった。とまぁ、色々あった1年前だが俺にとって嬉しかったのは妹が出来たことだった。翼は俺によく懐いてくれた。
突然出来た同年代の男性の義兄。嫌に決まっている。なのに、優しかった。普通に接してくれた。俺はそんな翼のことを本当の妹のように思っている。
*
「……お兄ちゃん。お帰り」
「あぁ、ただいま」
「ッッ//」
出迎えてくれる翼。俺は精一杯の笑顔で返す。
今日も家に帰ると素早くドアを開けてくれる翼。本当に毎日何故こんなにも早いのかと思うほど素早く開けてくれるのだ。
翼は基本にダルそうにしていて話していても気だるそうにしているが、家族のことを何より大事に思っているのが伝わってくるし、なんやかんや言いつつも助けてくれるいい妹なのだ。
俺は靴を脱いで部屋に上がる。その時だった。翼がなにかに反応したのだった。
「……今日のお兄ちゃん、女の匂いがする」
「えっ!?」
そう言うと俺の周りをクンクンと嗅ぎだす翼。……もしかして、今日夏樹をおんぶしたからか? しかし、翼が気にすることでもないと思うんだけどなぁ。
そして翼は俺を指差してこう言い放った。
「……お兄ちゃん彼女が出来たでしょ」
「いや、出来てないけど」
全く的外れでした。うん。
「……ならいい」
「なんだって?」
「……なんでもない。早くどっか行け馬鹿にぃ」
「馬鹿にぃ言うなよ。傷ついちゃうだろ?」
翼のいつもの憎まれ口だとは分かっているが少し悲しくなる。妹に嫌われるのは辛いのだ。
「……それは、悪かった。冗談だから許してほしい」
「全然気にしてないから、いいよ」
本当は結構気にしてたけど。
「……ちょっとは気にしてくれないと困る。
何にも意識してもらえてないみたいで嫌だし」
そう言うと少し頰を膨らませてむくれてしまう翼。こうなると、あとはやることは1つである。翼のあの言葉を待つのみである。
「……頭撫でて欲しい。……今回はそれで許す」
「分かったよ」
俺がゆっくりと翼を頭を撫でてやると翼は目を細めてくつろぐ。いつもの光景だ。翼は撫でられることか好きなのである。ただ、それを前に言ったら「……お兄ちゃんは何にも分かってない」とか言ってたけど……多分照れ隠しだろう。
今もこんなにも気持ち良さそうだし。
「……で、なんでお兄ちゃんから女の匂いがするの?」
「多分、夏樹だろうなぁ」
俺は特段隠すことではないので心当たりを打ち明けるとする。しかし、翼は大層驚いたようで普段の落ち着いた表情を一変させて驚いたような焦ったような顔をしていた。
「……あの、夏樹ちゃんが? なんで?
馬鹿にぃ、早く理由を説明して」
「分かった。分かったから、手から取り出したそのトマトケチャップを今すぐに下に置くんだ。何をするつもりなんだ」
「……事と次第によっては、夏樹ちゃんとお兄ちゃんにこれをかけなければならない」
「うん、普通にやめてくれないかな? 制服着れないと困るから」
「……お兄ちゃんが困るならやめる」
そう言ってトマトケチャップを手放す翼。なんでこんなにも聞き分けがいいのだろうか?
俺は「えらいね〜」と頭を撫でてやりたくなる気持ちを抑えると昨日と今日のてん末を翼に話すのだった。
*
「______というわけなんだ。分かったか?」
「……あの夏樹ちゃんが」
「だろ? 変なんだよ。お兄ちゃんとしてはもはや不気味というなんというか……でも、ちょっとだけ可愛いんだよなぁ」
俺としては何気なく発した言葉だった。しかし、次の瞬間翼はとても慌てた様子で俺に迫っていた。
「可愛いって言った? お兄ちゃんが? あの夏樹ちゃんのことを?」
普段のダルそうな感じはどこへやら。今まで、見たことのないようなテンションで俺に掴みかかる翼。一体どうしたんだ!?
「ちょちょい、翼。苦し______」
「ご、ごめんお兄ちゃん。……でもどういう訳か説明をして」
素早く俺から手を離した翼は反省をしつつも、俺に対して少し怒っているようだ。
何故?
「いや、純粋にただただ思っただけだから説明のしようがないんだよ」
「……無自覚の反応? ……これはいよいよ夏樹ちゃんも警戒すべき? 」
「警戒ってなんだ?」
「……地球崩壊くらいどうでもいいことだから気にしなくていい」
「めちゃくちゃ気になることだね!? 全然、どうでもよくない案件だよね!? それ」
「……分かってもどうしようもないから、知っても意味がない」
「確かに地球崩壊を止めることはできないけど……って何の話だったけ?」
「……忘れたらならいい」
俺と翼がそんなやり取りをしていた時であった。ピーンポーン。チャイムが鳴ったので俺は玄関に向かいドアを開けた。するとそこには……。
「あ、あの新田。きょ、今日家でお菓子を作ってたんだけど偶々、本当に偶々作りすぎちゃって良かったら貰ってくれない?」
お菓子らしき袋を携えた夏樹が立っていた。
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次回、義妹VS夏樹さん ?
どんな感じになるのやら。お楽しみに。
もし少しでも続きが気になったら星と応援お願いします。作者のモチベが上がって更新が早くなるかもです。(今回はそれで早くしました)
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