第25話 半永久のしじま
「私は顔がないと思うの。私は他の人よりも顔がないって。大事なパーツが抜け落ちっているから他のみんなともう話せないんだろうって思うの。説明がうまく出来ないんだけれど……。とにかく私に顔がない。大事なものがない。よそ者に奪われてしまったような気がするの」
「僕と同じだね。君と僕はよく似ているよ」
顔が赤くなっていないか気になった。
胸がドキドキと鼓動を繰り返し、柱時計のカチカチと律儀に振幅する音のように高鳴っている。
誰か見ていないかな。
たかが親戚の子じゃないか。
私って意識しすぎだ。
そんな言葉が脳裏に走った。
どうしてここまで胸が高鳴るのか、意識が高ぶりながらようやく言葉を選べた。
「前も言ったけれどどこが私と真君が似ているの?」
「こっそり変な綽名をつけているところ。僕も光生を陰でデメキンって呼んでいるよ。目が大きくて存在感を誇示しているから。光生には内緒にしといてね。光生は怒りだすとしつこくてちょっと怖いから。それと真依ちゃんと僕は他の人を騙しているところがある」
「騙していなよ、誰も」
毅然と答えを否定したが蛇は躊躇わず話を続けた。
「僕も君も他者に嘘をついているんだ。誰もが瞬時にわかってしまう見え透いた嘘を。他者は僕たちが自分の真意に逆らって嘘をついて合わせているのをすぐに見破ってしまう。僕たちはそれにも気付かない。そこで道化を演じて媚を売り続けるしか術はない。誰にも見せる顔がない。誰にも自分という本物の顔を出せない。いつも偽りで象られた仮面を身につけている。透明な城壁に囲まれてもがいている。自分自身を跡かたもなく存在が空白になるまで僕たちはもがき続ける。普通という名の鏡の表面には透明な僕らという存在は映っていない」
風がないはずなのに蛇の肩近くまである長い髪の毛が揺れたような気がした。
不敵な微笑みを浮かべて腕の傷跡を見せた。
「これも仮面を身につけた結果だよ。自分に偽りを突き付けて無理をしているから心のどこかで崩れてしまうんだね。あの女も僕と同じように見え透いた嘘をついていた……」
蛇が肩から長袖を通しリストカットの傷跡を隠し終えると、じっと半永久の間、目線を合わせた。
何を言いたいの?
何が真君はしたいの?
答えてよ。
分からない。
心に突き刺さって永遠に取れない棘となる。
私は狼狽えた。
「あの女って誰なのよ。前々から気になっていたけれど……」
「母さんだよ」
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