第21話 裏腹な安堵
「どうして?」
会話もそこまでだった。
真逆様になだれ落ちていく。
身体の重みが完全に抜け急速に奈落の底のさらに底へと落ちて行く。
恐怖はない。
むしろ、それとは裏腹な安堵があった。
暗澹たる中で一筋の光が見える。
「真依……」
声はかすかだ。身体はまだ下へ落ちて行く。
このまま地獄の果てまで行ってしまいそうな勢いがある。声は徐々に大きくなる。
真依、真依、マイ、マイ……と。また蛇が私を呼んでいるのかな、と思うと身体がふわりと揺らめき何者かの手が繋がった。
「真依!」
視界がぼやける。
ここはどこだろう、と感づいた瞬間、目の前には莉紗が話している。
意識はまだ朦朧としたままだ。
夢と現実の境目に落ちたみたい。
視界が歪んでいる。
歪んだ景色は徐々に目際になり今、自分が居眠りをしているのがようやく理解できた。
「真依ったら、もう、授業はとっくの前に終わっているよ。すごく寝ていたね? 前の席の近藤君も爆睡していたから二人揃って机に顔をつけているのがおかしくてあのピリピリが『しょうがないですね、皆さんは集中して授業を受けて下さい。居眠りはもってのほかです』って大声で言っていたからみんな大笑いしていて。おかしかった」
「私ってそんなに寝ていた?」
「だいぶ寝ていたよ。授業の半分は寝ていた。ピリピリが起こさなかったのが不思議。怖いのにね。ねえ、ピリピリのあだ名の由来って知っている?」
「知らない」
「ピリピリってね、いつもピリピリ怒っているからっていう説を信じている生徒も多いようだけれどそうじゃないって。あの先生が職員室で至福の柿の種を食べたときに口をぐちゃぐちゃする音がひどいらしくて、それでピリピリっていう何とも不名誉なあだ名がついたんだって。いつも怒っているのにもひっかけているらしいけれどね。近藤君たちがつけたあだ名なんだって……」
莉紗は噂のことになると口が止まらない。
下手をすると一時間でも二時間でも喋っている。
本人は口をチャックするつもりはなくて、暇さえあれば悪口や些細なこぼれ話を話している。
そう言えば、蛇には自傷癖があるということもあっという間に莉紗の口から漏れたようで、それをきっかけに蛇は三年生のどのクラスから浮いているって聞いた。
莉紗の小言を耳に挟みながらも、実際はほとんど内容を頭に入っていなかった。
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