第15話 本音


 自分でもなぜそう言ったのかはわからない。


 早く家に帰ってテレビを見たいから?


 ただ何となくついてきている?


 それとも、こんな雨が降りしきる梅雨の時期に家に転がり込んできた、今もなお、謎が多い親戚の内情を探っているだけかな。


 それ以外の感情に裏に隠された思いがある気がする。


 ……気になっている?


 ふとそんな自分とは無縁だった用語が脳裏に浮かんで、すぐに否定した。




「いいよ。君にはわからないよ。本は適当に押し込んでおけばいいものじゃないんだ。ルールに乗っ取って数ある本は整理されているのだから」


 ああ、やっぱり。


 ぶつぶつとそんな言葉を呪文のように頭の中で唱え、蛇がのそのそとして片付けに時間がかかっているから先に玄関を抜けると、外は小雨がパラパラと降っていた。


 念のため、傘は持ってきたが一本しか持ってきていないのに今さらになって気づいた。




 どうしよう。


 二本持ってこればよかった。


 仕方がないので蛇を待つことにした。


 中に戻ってみると、カウンターにいたおばちゃんが帰る準備をしているのか、先ほどからは打って変わってあせくせと書類を片付けたり、戸締り確認をしたりしていた。




 蛇がようやく戻ってきた。


 手には二冊の本を持っている。


 何だ、カードはまだ持っていないのに、まさか、カードを作っていたから時間がかかって待たせていたわけ。




 少し腹立つ。


 しょうがない。


 蛇が無神経なのは昨日の喧嘩の件からわかっている。


 ますます謎が深まってきてしまった。


 蛇は一時的に住んでいるわけじゃなかったの?


 なぜ、お父さんとお母さんとの関係が見えてこないんだ?




 謎だ、謎。果たして何者なのかはわかりません。


 それは神様しかわからない。


 あなたにはこの不条理は知らなくてもいい。


 そんな児童書に書かれていたキャッチコピーを昔々に読んで忘れたはずなのに思い出した。




「待たせたね。早く家へ帰ろう」


「ねえ」


 どうしても聞きたくて、無理やり聞いてみた。


「真君って本当に私の家の親戚なの?」


 それからは怒濤のように言葉が飛び出した。


「だってさあ、変だよ。私の家にはそんなに親戚の子っていないし、お兄ちゃんだってつい最近、真君の存在を知らされたんだよ。真君からも自分のことを知らせてくれないし、お母さんもお父さんも何にも教えてくれないんだよ。変だよ」


 蛇は目が丸くなっている。


 というよりもただ驚いて戸惑っているだけかもしれない。


 唇の先端を尖らせ、物言いたげな様子で見ていた。




「あんたって何者なの。おかしいよ。変だよ。ことの全てが何にもわかりやしない。蛇の性格も普通とは違う。クラスのみんなやお兄ちゃんには持っていないくらい何かがある」


「蛇って誰のこと?」


 しまった。本音が飛び出しちゃった。


 これからまた怒られる。


 怒りをぶつけられて、気が動転しそうかも。


 怒号の勢いは容赦なくこっちに刃向かう。


 その矢先、蛇は声を抑えて笑ったのだった。びくりとひるんでしまう。




「それって僕の綽名? 真依ちゃんだって十分変じゃないか。よそ様のことを忠告する前に自分のことを省みたらどうだい」


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