第14話
ピー、ピー、…
ショートケーキに使うスポンジ生地が出来上がったようだった。
我に返ったかのように、帆貴は笑顔で
「レンジンの方見てくるね」
「は、はい」
ちょうど洗い物を洗いきりそれを拭くのを終えた帆貴が小走りに電子レンジの方へ向かった。
「大丈夫そう」
電子レンジの扉をあけ、振り向き笑顔で理央に伝える帆貴。
いつもの帆貴がそこにいた。
やはり自分の考えすぎだろうと先ほどの視線を心の中で払拭させた理央だった。
電子レンジから耐熱皿を取出し、中央の机へと運ぶ。
「徳子先輩、こっちは焼きあがりました」
「オッケー、こっちも終わったよ」
違う洗い場で使った器具を洗っていた徳子が帆貴に応える。
少し時間を置き用意したバットに移し、型を取り外す。黄金色のスポンジ生地がバターと砂糖のにおいで部屋を覆う。
「おいしそう…」
「まだ食べちゃだめですよ」
笑いながら理央に注意する帆貴。
「この生地を半分くらいの頃で横から切り上下2つにします」
作業を終えた徳子と直人がホイップクリームを入れたボウルとカットしプレートにのせた苺をスポンジ生地のある方と持ってきた。
パン切包丁を持ち出し軽く洗ったそれを使い帆貴は出来上がったスポンジ生地を上下に等分のところで横から切り出した。
綺麗に半分になった下の部位にホイップクリームをゴムへらですくい、生地に載せパレットナイフで塗り始める。
薄く塗り始めた帆貴は十分に塗った下の部分を見て
「こんな感じにまず下の部分の表面にクリームを薄く塗り、三等分にした苺をのせていきます」
帆貴は躊躇なく曼荼羅の一部分のようなきれいに弧を描くようにして苺を並べていく。
並べ終わったらもう一つのスポンジ生地を下部の上におきサンドイッチのように挟む。
そこからまたホイップクリームをむらなく生地全体に満遍なく塗る。
生地にホイップクリームを塗りおわったら最後に等分にした苺を同じく円を描くように並べていく。
一連の動作はとても鮮やかに行われ、プロのような手さばきを帆貴は見せた。
「すごい。売っているとショートケーキみたいだ」
直人が素直に帆貴の技術と出来上がったショートケーキを見てつぶやいた。
「よし。写真をとって活動記録を残しておきますか」
携帯電話を取り出した徳子はカメラ機能を使い何枚か写真をとり
「それじゃあ四等分にして実食といたしましょう」
帆貴が皿を用意し四等分に切り分け、皿に分けていく。
その間に徳子が給茶の準備をしている。
徳子が準備をしているところに理央が近づいて話しかけた。
「自分も何かしましょうか」
「じゃあ先に洗えるもの洗っておこうか」
「わかりました」
使った調理器具を集め、洗い始める
「そしたらそれ、拭くよ」
「ありがとう」
理央が洗い始めたのを見て、直人も洗ったものを拭くことを名乗り出た。
「すごいな、先輩の手さばき」
「うん、やっぱり慣れていることもあるのだろうけれど、それにしても手際がよかった」
元パティシエの母を持つ理央も彼女の技術に驚かされた。
先日の大福といい、今回のケーキといい家庭科部に入っているからと言っても技術は高校生の手際とは思えなかった。
洗い物を終えた理央たちと同じくして給茶を終えた徳子が場をまとめるように言い始めた。
「それじゃあ、準備できたしいただきますか」
各々が席に着き、
「いだたきます」
と声を合わせて食べ始める。
理央は用意されたフォークをとり、四等分にされたケーキの先の尖った方からフォークをナイフの要領で切り崩し、切った一部を頬張った。
「おいしい」
出来立てのケーキを食べたのは久々だったがやはり出来立てはおいしい。洋菓子屋で売られているショーウィンドウで冷やされたケーキとは違い、作り立ての生クリームやスポンジ生地のおいしさはひとしおだった。特段、特別な材料を使ってはいないがこのショートケーキは店で買ってきたものより特別おいしく感じる。
「ははは、笑いが出るほどおいしいな」
直人が言葉の通り笑いながら感想をしゃべり始めた。
いたって普通の表情をした帆貴が給茶された紅茶を飲みながら、ふうっと軽くため息をついて
「やっぱり皆で食べるとおいしいですね」
「そうだね。私たち以外の部員と一緒に集まってつくって食べるのは久々だね」
徳子が帆貴のつぶやきに応えるように話した。
「ふぅ、ごちそうさま」
直人はもう食べきったらしい。
「もう食べたの!」
「ああ、とても美味しかったからついな」
「ごちそうさまです」
「お粗末様です」
帆貴が嬉しそうに返礼した。
紅茶をすすりながら直人は徳子と帆貴に質問した。
「今後は何か作る予定あるんですか?」
「んー…あ、マカロン作ろうかって話してたよね」
「そうですね。今回は歓迎会ということでお礼をこめてつくりましたし次回は手軽に食べやすいマカロンにしましょうか」
「あ、二人に行っていなかったけど料理作る際はみんなで費用を見繕って料理作るからそれは覚えておいてね」
「はい」
「わかりました、大体どのくらいかかるものなんですか」
「時々に寄るけど、四人もいればそんなにかからないと思うけど、月千円もいかないくらいかな」
「毎回、料理するわけじゃなくてレシピを作ったり、他の活動もやろうかと構想中だからね」
「わかりました」
「ごちそうさまでした」
帆貴も食べ終わったらしかった。
それに合わせるようにしてあわてて理央はケーキを大きく切り崩し頬張っり食べるペースを上げた。
「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ」
帆貴は優しくかすかにはにかみながら理央に諭した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます