第13話

「そう言われればそうだね。図らずもデートをセッティングする格好になったね」


「どうだった?校内一の美少女と放課後デートできた感想は?」


「いや、デートだなんて源先輩に失礼ですよ。本当にただ手伝っただけで」


ヘッドロックから抜け出しながら釈明した。


「徳子先輩、そろそろはじめましょうか」


帆貴が気を利かせて調理の開始を促した。


「そうだね」






中央の机には概ねの調理器具と材料が置いてあった。


「工程的にはベースとなる生地を作り、それと並行してクリームをつくり、最後にクリームを塗ってトッピングして完成って感じ」


ざっくりとした工程を説明された。


「まずは生地から作って焼いていきましょうか」


帆貴はバターを耐熱皿に載せ、電子レンジへと運びワット数や時間を調節しそれを加熱する。


「2人もやってみようか」


徳子が2つボウルを用意した、卵をプラスチックのケースをあけ、取出し、机で軽くたたきひびをいれて割る。


割った卵を、片方のボウルの上で卵の殻を使い黄身と卵白を分け一方に黄身にもう一方に卵白を分けた。


「どうぞ」


「はい」


「できるかな~?」






直人は不安そうだったが理央は雅子の手伝いの賜物か恙無く黄身と卵白わけた。


直人も理央の割る姿を観察した上でゆっくりとその行為を行った。存外、直人は器用に分けることができた。


「いいね。それじゃ残りの分もやってみようか」


同じ動作を2人は繰り返す。


それを終えると作業している机へ戻ってきて帆貴は卵白がはいったボウルとホイッパ―をもち混ぜ始めた。


「泉君、これを混ぜてメレンゲにしてもらえますか」


「はい」


理央はボウルとホイッパーを帆貴から受け取り、混ぜ始めた。


「こんな感じですか」


「もう少し大きく、空気を入れ込むようにして…」






帆貴は理央に横から近づき理央の右手に自身の手を添えながら混ぜ方を教えた。自然と軽く体の一部が密着し触れ合う。耳元で帆貴の息使いが感じられる。


その行為に自然と赤らみ照れる理央。


「あ、ありがとうございます、わかりました」


そっと、わずかに理央は帆貴から離れ平静を保ち、混ぜ方を習ったとおりに混ぜた。


「そうそうそんな感じ」


それをみていた徳子が直人に言う。


「それじゃあ私たちはホイップクリームをつくりますか」


「わかりました」


素直に応じる直人。


理央は引き続き、生地のもとを混ぜていた。


「そうしたら薄力粉とさっき分けた卵黄をいれていきましょう」


「はい」


ダマにならないように混ぜてみてと帆貴が優しく指導する。


ピー、ピー、…


先ほどのバターを温めていた電子レンジからアラームがなった。


「あ、できたみたい」


帆貴がミトンを右手にはめて、耐熱皿をとりだし理央の作業している机に持っていき、様子を窺う。


「大丈夫そうだね。そしたらここに牛乳と溶かしたバターを入れます」


帆貴はバターと計量した牛乳を理央が混ぜたボウルの中に流し込む。


「そしたらもう少し混ぜ込んでくれるかな?」


「はい」


ひたすら生地を混ぜ込む理央。


その間に帆貴は事前に用意してあった別の耐熱皿と生地を焼き上げるための型を用意する。耐熱皿にクッキングシートを敷き、その上に型を置く。


「そのくらいで大丈夫かな、そうしたらこの中に流し込んで見て下さい」


久々のお菓子づくりでやや疲れ気味の理央だったが何とか生地を混ぜ込み、型にそれを流し込む。






「ありがとう。そうしたらこれをレンジで焼いてくるね」


生地を流し込んだ耐熱皿を電子レンジに持っていきそれを入れた。電子レンジの調理時間とワット数をセッティングし、スタートのボタンを押した。


並行して同じ机の斜め反対の位置で徳子と直人が同様に作業する。


「生クリームと砂糖を入れてホイップクリームをつくります」


徳子が計量した生クリームと砂糖を用意したボウルへと流し込んだ。別に氷水のはいった大きめのボウルにホイップクリームの材料を入れたボウルごといれる。


「そしたらあとは混ぜる」


直人がひたすら混ぜ始める。


「お!いいね、活きがよくて」


「いわれるがままやっているのでどんな風になるのかまだ想像がついてないです」


「大丈夫、大丈夫。私たちが見てるから」


しばらく混ぜ、ホイッパーで持ち上げるとやんわりとしたホイップクリームが出来上がった。


「オッケー。そしたらそれは置いておいて今度は苺を切っていきます」


「苺は用意した三分の1を縦に三等分、残りを縦に半分に切ろうか」


「わかりました」






包丁、まな板を水でさっと洗い金属製のプレートに苺を用意する徳子。


「それじゃまず、お手本を見せます」


徳子が包丁を取り、一粒をプレートから取り出しヘタを落とし切った部分を底にし垂直に包丁を入れ三等分に切り分ける。また同様にヘタを落とし、今度は半分に切り分ける。


「こんな感じ。じゃあまずは三等分の方をやってみようか」


どうようにヘタを取り、三等分にしていく。


徳子は様子を見ながら、切り分ける苺の数を数え、プレートの中で三分の1と残りを分ける。


「このプレートの手前に分けたのが三等分に切ってほしいもの、あとは半分に切ってほしい物」


徳子は直人に教えながら様子を窺う。


「全然問題ないね。普段料理とかする?」


「いえ、あんまりやらないっす。家で手伝いをするくらいで包丁とかはあまり持たないですね」


「動きはスムーズだし、スピードもいい感じだからすぐに家庭科部に慣れるよ」


徳子は満足そうに微笑みながら真剣に苺を切る直人を見守った。


手すきになった理央と帆貴はスポンジ生地が出来上がるまでの時間、洗い物を洗い始める。


理央は昨日のことを思い出したかのように帆貴に語り掛ける


「家庭科部ではあの調理器具店をよく使うんですよね」


「そうですね、調理器具やかわいい雑貨なんかが多くて女の子とかがよく店に入ってきますね」


「実はあそこで唐突なんですけどバイトの面接を受けることになって初めてバイトの


面接を受けるのでどんな感じなのか不安でして…」


「…そうなんですか」






やや低めのトーンで作り笑いのような笑顔をする帆貴。


「あのお店、雰囲気いいですよね、おしゃれだしBGMもジャズがながれてて」


直人は洗ったものを帆貴にわたしてそれを布巾で拭く帆貴が手を止めた。


「どうしてあのお店なのかな?」


その低いトーンでやや詰問に近い形で質問する。


「え?えっと、今後の家庭科部の出費を考えたときにバイトしようかなっておもって、時給がいいのと店員の人に聞いたら、明日面接に来てくれっていわれて…」


ジトっと帆貴が理央に目をやる。それに気づき手を止める直人。


「なにか問題…ありました…」


恐る恐る聞く理央。


「…そうだよね、高校生だしアルバイトも必要だよね」


また苦しそうな作り笑いをしながら料理器具を片付け始める。


「ごめんなさい、変なこと聞いてしまって」


「いや、全然大丈夫ですけど」


小声で返答する直人。


昨日の買い物でも似たようなことがあった。鋭いようで、ジトっとした目を理央に向けてくる。


前回の時よりもその瞳は奥が深く、初めて家庭科部で出会った時とは違う意味で吸い込まれそうだった。


帆貴に何か引っかかるものがあるのだろうかと理央は不思議そうに感じていた。

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