第12話
翌日 金曜日
登校中は昨日のアルバイトの件でいろいろと悩んでいた。
初めてのアルバイトで面接があり、どのようなことを聞かれるのか厳しいバイトだったらどうしうようなど思いを巡らせていた。よくよく考えたらバイトの業務内容も聞いてないし、待遇も何も知らない。不安が募るばかりである。勉強に部活、アルバイトと三拍子そろいそうな学校生活。
どうしようかと歩きながら考え呆けていたのかいつもより早めに学校に到着した、
昇降口より下駄箱で上履きに履き替え4階へと歩き始める。
4階の踊り場からC組へ続く廊下に向かう途中、
「やぁ。おはよう。理央君」
女子の声、後ろから肩をたたかれ驚きつつ理央は後ろを向く。
「ああ、昨日の」
調理器具雑貨店のアルバイトの女子生徒だった。近くで見るとその顔立ちがよく整っているのがわかる。理央は顔の近さからか若干照れた。
明るい笑顔を見せながら、はにかみ、理央に尋ねた。
「親御さんに許可取れた?」
「い、一応とれたよ」
理央が顔を引きつらせ気まずくばつの悪そうに答えた。
「よかった、一応店長…の代理の人にも面接の件、伝えておいたから必ず明日、うちのお店に来てね。来なかったら面白いことになっちゃうかもね」
右手でピストルの形を作り理央に向けいじわるそうに笑った顔はきりっとしたいつもの面持ちから幼さが表れた。
「じゃね」
軽く挨拶をしていき、彼女は自身のクラスの方に向かった。
着々と進むアルバイト始動の計画。
肩をがっくりとおろし、彼女を見届ける。
「あ、彼女の名前、聞いてなかったな」
思い出したかのように彼女の名前を聞き忘れたことを思い出した。昨日はアルバイトのユニフォームとかネームプレートみたいなものを着用していなかったので名前などがわからなかった。
とにもかくにもあの店に面接しに行くしかないようだった。
いつものように自身のクラスに着きクラスメイトと、直人に挨拶をし授業を受け、昼休み、自分の机で弁当をほおばり午後の授業をすまし放課後までもう少しというところまで迎えた。6限目の終了10分前、英語の担当教諭が週明けに小テストを行う旨を皆に伝えた。クラスメイトの多くはあからさまに辟易とした表情を見せた
ホームルーム終了後、理央はA組へ直人を迎えに行った。弓道部の方は今日は休みらしく、家庭科部の新入生歓迎会へ一緒に行く算段だった。
ホームルームが終わり、直人が出てくる。
「よーっす」
「お疲れ」
「昨日はすまなかったな」
「全然、大丈夫…だったよ」
理央は一瞬、思案しアルバイトについてのことは腹の奥底に仕舞い込んだ。
「なんだその間は」
「いや、別件で悩み事があってね~、大した事じゃないんだけど」
「源先輩にもう振られたか」
「告白もしてないし、振られてもいないよ」
即座に否定する理央。
「その気はあるんだな」
「つっ…べ、別にそんなことは」
「1年でも徐々に話題になり始めてるぞ、2年の女子にかわいい先輩がいるって」
「そ、そうなの」
気にしていないような素振りでいたが目があからさまに泳ぐ理央。
「噂だと、結構お嬢様で校外の習い事に忙しく、テストの成績もいつも学年上位なんだと」
「詳しいね」
「弓道部の先輩とか他のクラスの連中から耳にしてな、あの容姿とステイタスなんだから誰からいつ告られてもおかしくはないな」
「でも告白は全部断ったって聞いたよ」
「もしかしたら男には興味なくて、同性に興味があるのかも」
それを聞いた理央は愕然とし固まってしまった。
その様子を見ていた直人がフォローするかのように言う。
「まぁ、普通に考えてここの高校の成績上位者で部活と習い事やってれば交際してる暇なんてあるわけないよな」
「ま、まぁそうだよね…」
肩をおとし落ち込む理央。
「家庭科部に所属してればチャンスはあるかもな」
そういって直人は笑いながら理央の背中を軽くたたき、励ました。
「そ。そうだね。ってチャンスってなんだよ。別に源先輩に告白したいわけじゃ…」
理央は慌てて否定した。
「わかった、わかった、ほら家庭科部いくぞ」
腑に落ちない理央を置き家庭科部に向かう。その背中を追うように理央も歩きだした。
家庭科部に着くと三角巾を頭に付けた帆貴と徳子がすでに準備を進めていた。
「お疲れ様です」
ドアを開け理央が挨拶する。
理央に続いて、直人も軽く挨拶する。
「こんちわー」
「お疲れ様です」
「お!2人ともそろってきたね」
徳子が両手を腰にやり、意気揚々と理央たちに声をかけた。
「早速、やりますか」
「荷物適当において、三角巾つけてくれる?」
理央と直人は近くの席にカバンを置き、中央の机で作業をしている帆貴達の方へと近寄った。
事前に用意されていた、三角気を頭に着けた。理央は直人が三角巾を頭に付けた姿があまり似合ってなかったので笑いそうになる。
「ん?どうした」
「いっや、なんでもない」
徳子が今回の料理作りについて話をし始めた。
「一応レシピはあるけど二人はケーキ作りとか経験ある?」
何とか笑気を抑え回答する理央。
「僕は幼いころに一回やったきりであまり覚えてないです」
「俺は全くの素人です」
各々が返答すると
「そっか。まぁ今回は私たちがリードするからできそうなことを手伝ってもらう形にしようか」
「そうしてもらえると助かります」
帆貴は理央に尋ねる。
「そういえば、昨日ごめんね。急に頼み事しちゃって。大丈夫だった?」
「あ、いえ、あの場からすぐ近くだったので」
理央が思い出し置いていたカバンからホイッパ―を取出し
「これでよかったですか?」
「そうそう。ありがとうございます」
天使の微笑みと題したくなるような笑顔を理央に向けた。
「レシートをもらえるかな?」と聞いてきた先輩に財布からしわがよったレシートわたしかかった金額を清算してくれた。
「そうだ、昨日ごめんね、急に用事が入っちゃて」
申し訳なさそうに徳子が理央に謝る。
「いや、自分は帆貴先輩についていっただけなので」
すぐさま理央は気を利かせてフォローした。
「そうしたら、理央と源先輩で買い出しにいった感じか」
「羨ましいなこいつ!」
すぐさま直人が理央にお得意のヘッドロックをかけ、「ギブギブ」と理央が値を上げた。
「ははは…」
帆貴は照れ臭そうに苦笑いした。
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