第2話

月曜日。一週間が始まる。


クローゼットからブレザーの制服を取り出し着替え、指定のカバンを抱え一階のリビングに向かう。






雅子がすでに用意した朝食は前日の残りものではあるがは見栄えが良く朝ながらも理央の食指をすいすいと動かした。


煮物を頬張りながら、


「昨日と味付けが違うね。おいしいけど」


「ちょっと濃くしたのよ。昨日私が薄く感じたから。」


ささっと朝食をとり、食器を片付け、ごちそうさまと雅子に言う。満足そうな雅子を後にする。


洗面台で身だしなみを整え、学校へ向かう。






理央の自宅より徒歩30分もなく通える田ノ浦高校は私学であり、90年以上の歴史を持つ古くから続く高等学校である。名門ということもあり、名家や旧華族出身の生徒も入学する。生徒の自主性を重んじながらも文武両道をうたってはいるがどちらかというと学問に寄っている節があり運動系の部活動の成績もそれなりではあるものの突出したものは特にない。






文化部の種類もそれなりにはあるがこちらも高校の部活動をしたい生徒が入る趣味レベルのもので実績等がある部活などはあまり聞かない。


偏差値はそれなりな部分もあり進学率は高く、大学への進学に対し生徒指導も手厚いこともあり、理央は母の雅子が進学を進めた理由の一つなのだと考えていた。


理央にしてみれば、立地が良く街の郊外に位置し緑も豊かで環境がいいぐらいにしかとらえてはいなかった。理央は自転車を所持していたが運動不足が気になり徒歩で通う。






クラスは1年C組。4階の北側に位置しいつものように煩わしい階段を上る。


3年になれば2階へとクラスが移り、階段の上り下りも楽になるものだと自己暗示に似た潜考で自らを律し自席に向かう。


クラスメイトに軽く挨拶し、同じ中学出身の熊谷直人が挨拶しに来る。


「よーっす」


片手を肘から垂直にまっすぐ上にあげ軽い感じに挨拶した。


身長がすでに175cm程度あり、理容室で整えた短髪、いかにもスポーツやりそうな凛々しい顔立ち、体躯もしっかりしており軽佻な雰囲気だが中学の頃から先輩には礼儀正しく、後輩の面倒見がよい。


理央のようなごく普通生徒のような存在にも分け隔てなく砕けた接し方ですでに1年生の間でも人気な存在だ。


弓道部に入部しており、女子からの人気もちらほら耳にする。


特段、受験勉強の壁をともに乗り越えてきた理央は気が置けない存在であり毎朝のように挨拶しに来る。


「おはよう」


「まだなんとなくなれないな。高校生活」


「でももう弓道部の方ではエース候補らしいじゃない」


「なわけないだろ!入ってまだ数週間だぞ」


理央が冗談を言いながらけらけらと笑う。


「よかったね。弓道やりたかったんでしょ?それに先輩方もいい人が多そうで」


「ああ。爺さんが昔やっているのを見て、憧れでな。先輩達は結構フレンドリーなんでいろいろ教えてくれるよ。」


「毎日、大変だね。運動部は」


直人はそれをきいて、はて、といった顔をしながら言った


「弓道部は月、水曜日休みだし、走りこむわけでもないからそう大変でもないぞ」


「理央、お前は入らないのか?部活」


「僕はいいよ。やりたいこともないし…」


「前から甘い物好きだっただろ。家庭科部にでも入って菓子作りでもすればいいんじゃないか?」


直人も理央のお菓子好きな面を知っていた。


ばつの悪そうな顔をする理央。雅子に今朝言われたことを思い出しながら、


「母さんにもそれ言われたよ。そもそもここに家庭科部あるの?」


「確か部活中に家庭科部の噂をなんとなく聞いたような気がするが…なんだったかな」


「へ、へー…でも新入生歓迎の部活紹介で取り上げられてなかったような」


「あれは出たい部活がやるものだからな」


不意にそばにいた他の生徒が直人に声をかけ、「そろそろ予鈴がなるぞ」と言った。


声をかけた生徒は三浦義正みうらよしまさ。卓球部で中学の頃は主将を務めていたこともあるらしくしっかりした部分があるが冗談などをいい、ちゃらけた雰囲気でクラスを和ませる。ここ田ノ浦高校でも卓球部に所属している。


直人のクラスは1年A組。すでに顔の広い直人はこの1年C組のクラスの生徒から助言された格好だ。


「お!あんがと。」


直人が自分のクラスへと向かおうとしたその時、


「あ。そうそう、それとだな」


「理央、お前校外活動に興味ある?」


理央は直人の唐突な提案に眉をひそめる。


「どうしのさ、突然」


「部活やらないなら社会経験を積んどくのも後々悪くないかなと思ってな」


「直人が突然そんなアドバイスをしてくる時点で裏がありそうな予感がするんだけど」


「ははは…やっぱりばれたか」


「実はクラスメイトに放課後手すきの生徒はいないかと聞かれてね、鬱屈な友人のために白羽の矢を立てたのさ」


「そんなにふさぎ込んではいないつもりだけど直人の勧めだし考えとくよ。それより予鈴なっちゃうぞ。」


「おう。じゃあな」


「うん」


颯爽と小走りで駆け出しC組から直人が出ていった。


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