第7話 可愛いメイドさん
——その夜 夕食時
「桜姉さん!? その格好は何!?」
いつも着ていた着物を脱いでベネット家の使用人と同じメイド服に身を包んだ桜が厨房から食器を持って現れた。
「せっかくだからってロバート様がお洋服を貸してくださったのよ〜 似合ってる?」
近くを通った他の使用人のメイド服と何かが違う気がする……
「スカート短くない……?」
「若い子のスカートは短いに限るってロバート様は仰ってたわね〜」
ロバート氏何してんの!?
『どうだ? 良いだろうアサカゼ』
とかいう意図が絶対含まれてるだろこれ……
「何よアサカゼ。 サクラさんのメイド服がそんなにいいって言うの?」
後ろからの冷ややかな声に振り返ると顔を引き攣らせたキャロルが立っていた。
「桜姉さんが着物以外を着てるの初めて見たから驚いてただけだよ!」
「ふーん、どうだか。 それより座りなさい?」
朝風が椅子に座るとテーブルには大きなケーキが置かれた。
「アサカゼ、あんた昨日誕生日だったでしょ? 本当は昨日お祝いしてあげる予定だったんだけど……」
昨日は急遽、一日海で遊んでたもんな……
「俺のためにわざわざ用意してくれたのか……ありがとうキャロル」
「作ったのは私じゃないし! 用意してもらっただけなんだから!」
「それでも嬉しいよ。 キャロルに祝ってもらえるなら」
お前が居なくなってからは誕生日なんて、ただ歳をとるだけ日になったんだから。 本当に今幸せだよ。
「そう。 お誕生日おめでと! アサカゼ!」
「朝くんおめでと〜!」
「二人ともありがとう。 本当に嬉しいよ」
「さあ、食べましょう! アサカゼには私が切ってあげるわ」
キャロルはナイフを手に取ると丁寧にケーキを切り分けて一切れを皿に乗せた。
「おう、ありがと」
今度はフォークを手に取りケーキを一口サイズに切る。
「アサカゼ……はい、あーん……?」
え、食べさせてくれるの? 恥ずかしいなおい……
「キャロちゃん頑張れ……」
なんかキャロル応援されてるし……俺も頑張るかな。 実際のところすごく嬉しい。
朝風はキャロルが突き出したケーキを一口で食べる。
「甘くてすごく美味しい……」
「喜んでもらえたならよかったわ。 もう一口、どうぞ……?」
キャロルは顔を赤らめたままもう一口ケーキを突き出した。
「まだやるの? まあ食べるけど……」
朝風も少し顔を赤くしてケーキをだべる。
「アサカゼ恥ずかしがってるの? 耳まで赤くなっちゃって可愛い」
お前の可愛さには遠く及ばないよ……
結局ケーキがなくなるまでキャロルは朝風に食べさせ続けたのだった。
食後、朝風は用意してもらった部屋でのんびりと過ごしていた。
「ふぅ……食った食った……」
そんな呟きをこぼしながら先程のキャロルを思い出す。 本当、お前には敵わないな……
そんなことを思っていると部屋のドアがノックされる。
「アサカゼ……入るわよ……?」
「空いてるよ、どうぞ」
部屋に入ってきたキャロルを見て目を白黒させる朝風。
キャロルは桜が着ていたのと同じスカートの短いメイド服を着て現れたのだ。
朝風の頭の中は綺麗、可愛い。 そんな言葉で驚きが埋もれていた。
「やっぱりサクラさんの方が似合ってた……?」
驚く様子の見られない朝風にキャロルは不安そうに聞く。
「ごめん、驚くのを忘れるくらい見惚れてた…… でも急にどうしてそんな格好を?」
「誕生日プレゼント……私を……あげるから……好きにしてもいいから」
キャロルは赤らめた顔で、でも少し不安そうに言う。
「だから……サクラさんじゃなくて私を見て……?」
キャロルは不安だったのだ。 朝風のメイド姿の桜を見る視線が驚きの意味だけじゃなかったら。 そう考えると。
「当たり前だ…… 約束しただろ」
「それでも不安になっちゃうのは仕方ないじゃない……」
キャロルは恥ずかしそうに目を逸らすとベッドに腰掛ける。
「プレゼントなんだから、今日は何してもノーカンよ……?」
潤んだ瞳で見つめられる。 でももう答えは決まっていた。
「キャロとの思い出をノーカンに……無かったことにするなんて俺は嫌だ。 だからこれくらいで……ごめんな」
朝風も隣に腰を下ろすと優しくキャロルを抱きしめた。
「もう、アサカゼは真面目なんだから」
キャロルは笑って朝風を抱きしめたままベッドに倒れ込んだ。
「ねえ、アサカゼ。 今日はこのまま添い寝するくらいなら……ダメ……?」
「断らせる気ないだろ……?」
そんな顔で見つめながら言われたら断るなんて選択肢ないだろ!
「当たり前じゃないの!」
ほんと可愛い奴だなあ、もう。
「だってアサカゼはもう私の物でしょ!」
正確にはもう少し先にお前のものになるなんだけど…… まあいいか。
今は言えない好きの気持ちを、愛する気持ちを込めてキャロルを抱きしめた。
「寝るには少し早いけどこのまま寝るのか?」
「アサカゼは一秒でも長く私を抱きしめていたいとか思わないの……?」
「察してくれよ……」
「女の子はちゃんと言葉にしてくれなきゃ嫌なものよ……?」
「当たり前だろ……俺も同じ気持ちだ……」
「三十点かなぁ……」
キャロルが少し強く抱きしめてくる。 今すごく幸せだ……
この幸せがいつまでも続くように頑張ろう。
朝風は思うのだった。
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