第二章 君が居た世界-4

「他に何かしたのか?」


「いや、特に変わったことはしてない。僕は嫌われたんだろうか」


「いやいや、そんなことないと思うけどな。そんな急に人を嫌いになったりとかしないって。元気だせよ、な?」


「……ああ」


 元気をだせ。と言われて元気をだせる人はどのぐらい居るのだろうか。少なくとも僕はだせない。


 恋とは、中々難しいもののようだ。そんなものとは無縁だった今までの僕の人生からすると、恋は世界で一番難しい学問のようなものだ。


 恋が無事に実るには、何方か一方がアプローチし、少しでも自分の事をアピールしなければならない。上手い具合にいけば、自分の事を意識させることができ、そのままでいられれば、何方かが告白することで無事にその恋は実る。ただ、それは上手くいった場合だけだ。片想いの場合は、アプローチのタイミングで、ぐいぐいいきすぎてしまうと、場合によっては嫌われてしまう可能性もある。一番簡単なのは、両片想いの場合だ。何方か一方が告白できれば、それだけで上手くいく。ただ、ずっとそのままでは他の人からアプローチされてその人と付き合ったり、奪われてしまう可能性もある為危険だ。


 考えれば考えるほど、答えは遠ざかっていくみたいだ。まるで、波のように。


「月島、何考えてるんだよ?」


「は? 何で……」


「いや、だってめっちゃ思い詰めてる顔してたし……」

 

 ガラッ


「ただいまー」


 酒木が話している途中、ドアが開いた。そしたら、また笑顔で百瀬が入ってきた。


(まずい……また、さっきみたいになったら僕は……)


 ネガティブな事ばかりが頭に浮かんでくる。こんな僕を知ったら、百瀬は僕になんて言ってくるだろう。


 ふと酒木に視線を向けてみると、僕にウインクしてきた。


「俺に任せろ」


 口パクでそう言われた気がする。確かに僕一人でどうにかするよりも、酒木も居たほうが心強い。


「おっ、百瀬ちゃん!」


「あれ? 酒木君お帰り! 早かったね」


「まぁね。いやー、教室に入ったら月島が口あんぐり開けてドアの方向いてたから何事かと思ったよ! 何かあったの?」


「えっ!? あっ、葵君ごめんね! そういえば委員会の仕事朝してなかったなって思って焦っちゃって。仕事もしてないで葵君と話してるのバレちゃったら葵君まで怒られちゃうと思って……」


「そうだったのか。別に良いんだ、気にしないで」


 そういえば、百瀬は美化委員だ。掃除が好きで綺麗好きだから。という理由で美化委員を希望したらしい。何時も毎朝しっかり仕事をしている百瀬のことだから、怒られることはあまりないと思うけれど。


 でも、たとえどんな理由だとしても、百瀬が今こうやって普通に接してくれている。それだけで僕は嬉しかった。



 

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