第二章 君が居た世界-3

「まあ、取り敢えず何時も通り接することだな。急に馴れ馴れしくなったら不思議に思うだろうし、話しかけてこなくなるっていう可能性も有る」


「そうだよな。ありがとう」


 少しでもアドバイスが貰えただけ良いが、かなり心配だというのが本音だ。


 百瀬に嫌われたら、百瀬がもう話しかけに来なくなったら、そんなことを考えるだけで、胸が苦しい。恋とは普通こういうものなのだろうか。


 ガラララッ


 教室のドアが急に開いて、吃驚した。


「おはよう、葵君!」


 百瀬がドアを開けて、一目散に僕に話しかけてきたので、吃驚した。それと同時に、頬がいっきに熱をもった気がした。


「おはよう」


「おはよー! 百瀬ちゃん」


「あっ、酒木君おはよう!」


 僕はどうやら話し掛けるタイミングを見失ったらしい。


(……百瀬楽しそうだな。百瀬には笑ってて欲しい。)


 傍から見たら、ただ僕は静かに座っているだけに、見えているのかもしれない。内心では、物凄く焦っている。こんな僕のことがわかったのか、酒木がこちらを向いて、笑みを浮かべた。いや、ニヤニヤが正しいのかもしれない。


「あっ、百瀬ちゃん。月島が何か話したそうだよ。俺外行ってくるね」


「えっ!?」


「お、おい!」


「じゃ、仲良くね!」


 それだけ言うと、酒木は本当に外に行ってしまった。


 確かに焦ってはいたが、これからどうすれば良いんだろうか。僕は百瀬が食いつくような話題を、一つも持っていないのに。


「酒木君、行っちゃったね。それで、葵君はどうしたの? 葵君から話すの初めてじゃない? 嬉しい!」


「あ、いや、特に何もないんだけど…」


 僕は、今まで経験が無い程に頭をフル回転させて、話題を考えた。


(最近は何があった? これから何があるんだ?)


「……来月、もう中間テスト始まるだろ。勉強これから教える」


「えっ、もう中間!? ありがとう葵君!」


「じゃあ、これから放課後毎日残って。30分位でもやれば変わるから。帰りはまた送っていく」


「分かった! やったー! 頑張るね! あっ、今回中間と期末少し点数良かったら、ご褒美頂戴?」


「は?……分かった、ご褒美は好きなの決めといて」


「はーい、楽しみだな! 私ご褒美の為に頑張るから!」


「頑張りな」


「……うん、わ、私ちょっと!」


「え?」


 急に百瀬は、教室から飛び出ていった。僕は呆然としながら、百瀬が出て行ったドアを見つめていた。


「おーい、どうだった?」


 呑気な声で出てきたのは酒木だった。


「いや、百瀬が急に飛び出て行っちゃって」


「はあ? 月島何かしたのか?」


「いや……話てただけだ。中間は勉強教えるって。そしたら急に出て行ったんだ」


 百瀬は、嫌だったのだろうか。いきなり接触を図りすぎたのだろうか。今まで、こんなことを考えたことが無く、どうすればいいのかが全くわからなかった。 

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