第二章 君が居た世界-1

 入学式が終わって、高校生活が始まってから1ヶ月。


  百瀬は飽きもせず、毎日僕に話しかけて来た。初めは、直ぐに僕なんかに話しかけて来なくなるだろう。なんて思ってた。だが、僕の予想は外れたらしい。僕に話しかけない日は無いほど、百瀬は毎日僕に話しかけに来た。


「葵君!」


「……何?」


「さっきの数学の公式わかんなかったんだけど……教えてくれる?」


「他の人に聞いたら? 僕なんかより頭良さそうな人沢山居るでしょ」


「葵君じゃなきゃ駄目なの。だって葵君ちゃんと勉強出来てるじゃん。ね? 教えてよ」


「はあ?……分かった。どこ」


「ありがとう!」


「……何だかんだ月島君は百瀬ちゃんに優しいよな。俺にも優しくしてよ」


「はあ……酒木。ちょっと静かにしてくれないか」


「いいだろ、別に減るもんじゃないし」


 酒木颯人。僕の友人。


 僕は中々自分から話しかけることができない性格で、学校が始まってから最初はずっと一人で過ごしていた。


 まだ高校の構図なんかもまともに覚えていないうちに、移動教室の授業があった日。僕は少し早めに教室に行こうと思い、直ぐに移動しようとした。その時だった。


「なあなあ! 俺次の移動教室の場所分かんないんだけど、月島は知ってるのか? もしよかったら俺も一緒に行きたいんだけど」


 話したことも無い人から話しかけられ、少し僕は吃驚した。


 酒木颯人。僕以外にも彼と教室に一緒に行ける人は、周りに沢山居るだろうに。何故僕に話し掛けてきたんだろうか。


「……嗚呼、分かると思うけど。それでもよかったら着いてきて良いぞ」


「マジか! ラッキー! 月島いつも一人だから、俺みたいのが来たら断られると思ってた」


「別に、見た目ではあまり判断しないようにしてる」


「へぇー。良い奴だな! じゃあクラスメイトだし、これから俺等友達な!」


「は? そんなに直ぐに友達って作れるのか? 第一、酒木はもう十分友達がいそうだけど」


 彼は、クラスのムードメーカー的な存在で、皆から慕われ、好かれている。そんな酒木颯人が僕と友達……


「そんなことはどうでもいいんだよ! なあ、月島って何が好き? 俺めっちゃ映画とか好きなんだけどさ」


「……僕も映画は好きだ。どちらかというと洋画のほうが好きだけど」


「マジ!? 俺も洋画派だわ! もう気が合うな!」


「嗚呼、そうかもな」


「……月島って笑うんだな……」


「……? 僕だって人間だ。人並みの感情は有るし、笑うことだってあるさ」


「嗚呼……分かってるんだけど、クラスで笑ってるの、初めて見たからさ……俺めっちゃ嬉しい! なんかさ、俺等真逆のタイプだけど、結構性格とか趣味とか合いそうじゃね? やっぱ俺等友達確定な!」


「……分かった。でもあんまり実感湧かないな……ちょっと馴れるまで違和感があっても許してくれ。……これから宜しくな酒木」


「……! おお! 宜しくな月島!」


 こうして、僕には初めて友達と呼べる存在ができた。

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