第一章 君がいない世界で-6
ずっと、春との思い出を僕は閉じ込めていた。正直に言うと、今も胸が苦しい。でも、今思ったところで少しずつ克服しないと、春に怒られてしまいそうなので頑張る。
この写真を撮ったあとは、春のお母さんが先に帰るからと、僕達だけで帰った。帰りの間、春とずっと他愛ない話をしていた。春とは最寄り駅が一緒だったが、家の方向は真逆だった。
女の子一人で帰らせるのは、僕も途中心配だし、お母さんも心配するだろうからと、春の家まで僕は送り届けたはずだ。春は物凄く遠慮していたが、僕はこれが当然だと思っていた。
僕が帰ったあと、夜遅くに両親が帰ってきたはずだ。「写真は撮ってきた」というと、父さんは「サボらないで出てきたのか」と意外そうだった。だが、写真を見せると案の定「この娘はだれだ?!」と聞いてきた。僕が言う前に、母さんは「葵にもとうとう彼女が出来たのね!」なんて喜ぶし、父さんは「入学して初日なのにやるじゃないか」なんて言ってきた。説明をしようとしてもなかなか喋れず、「ご想像におまかせします。僕はもう寝る。おやすみ」と言って部屋を後にした記憶がある。
あの後、春は一体どうしていたんだろう。聞いてみても、「ナイショ!」としか返ってこなかった。
ずっとそんなことを思い出したり、考えたりしていると、いつの間にか朝方になっていたようだ。
今日は、また仕事があるので直ぐにホテルから出ていかなくてはならない。まだ、冬は始まったばかりだ。朝はまだ寒い。
ホテルから出ると、僕は駅に向かって歩き出す。始発に乗れば、仕事には間に合う。
今思っても、春と過ごした日々は全てが輝かしかった。高校2年生の夏までは。
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