第一章 君がいない世界で-5
「……いつから、気づいてたんだ」
「ん? 最初から。だってお母さんとかが来てたら、校門の前で俯いてなんかないでしょ? それに、入学式の日なのに帰ろうとしてたから」
「……そうか」
「だから、写真撮ろ。お母さん達にも見せてあげられるし、私達が仲良くなった記念に!」
「僕達仲いいの? 逢ったばっかりなんだけど」
「そんなの気にしないの! あっ、お母さん!」
そう言うと、百瀬は走っていった。途中転びそうになってて、こっちが心配になった。
なにか、お母さんと話ていて、途中お母さんは、物凄く驚いた顔をして一瞬こちらを見た。僕は一体何に驚いたのかよく分からなかったが、大方僕のことなのではないかと思っていた。娘が写真を撮るのに、もう誰かを、ましてや男が来たら驚くだろう。
勝手にそう思い込んでいると、話が終わったのか二人が近づいてきた。
「葵君、私のお母さんです」
「初めまして。入学早々娘がお世話になりました」
「初めまして。月島葵といいます。そんなことはありませんでしたよ。寧ろ僕のほうが春さんにお世話になりまして」
「あらあら、礼儀正しい子ね。春も見習ってほしいわ」
「ちょっとお母さん!」
「ふふ。あっ、写真を撮るのよね? じゃあ……二人一緒に映りましょうか。月島くんはカメラ持ってるの? 持ってたら私が撮ってあげるわよ」
「持ってます。すみません。お願いします」
校門のところでと言われたので、百瀬と先に移動する。ふと、百瀬の方を見ると何故かニヤニヤしていた。
「どうしたんだ?」
「えっ!? なにが?」
「ニヤニヤしてたから」
「えっと……嬉しかったから」
「何が?」
「葵君と写真撮れること。絶対無理にでも断られて、先帰っちゃうと思ってた……」
このとき、僕は百瀬を見て初めて胸が熱くなった気がした。だが、僕はこれが一体何だったのか分からなかった。
少し時間が経ったからか、少しだけ校門前は空いていた。そこに百瀬は立つ。
「何してるの? 葵君も隣!」
「は?」
「そうよ、月島君も春の隣に行って」
「いや、僕は百瀬の後で良いですよ」
「葵君も隣に来るの!」
ぐいっと引っ張られ、強制的に隣に来されられて動揺している僕と、満足そうな顔の百瀬、特に何も言わず写真を撮ろうとしている百瀬の母。周りが見たら一体何と思われるだろうか。
「じゃあ撮るよー。はいチーズ!」
パシャッ
◆
(嗚呼、懐かしいな……確かあの写真あったような気が……)
僕は、カメラを起動させる。本来ならアルバムを見ればすぐにわかるのだが、残念なことにアルバムは家に置いてきてしまった。
「あった」
そこには、初々しい制服を着た僕と春が写っていた。春は笑顔だが、僕はブスッとした顔で写っている。もっとこのとき、無理にでも笑顔を作っておけば良かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます