第一章 君が居ない世界で-2

 ホテルに着くなり僕は、バッグの中から一つのアルバムを取り出した。まだ新しい、薄黄色のアルバムだ。


(今の季節には合わないな)


 なんて、自分で買ったくせに、そう思ってしまった。


 早速、さっき現像してきた写真をアルバムに貼る。まだ、このアルバムには4枚程しか写真を貼っていないからか、とても寂しく思える。


「はあ……」


 僕は一体、何時までこんなことをするのだろうか。僕が写真を撮るようになったのは、今から11年も前からだ。アルバムも、もう何冊有るのかわからないくらいに増えていった。そう考えると、時が過ぎていくのは早すぎると実感してしまう。いや、そんなことを考えるのは辞めよう。


 今の時間は、18時27分。


 少しでも仮眠を取ろうと、ベッドに転がった。


 案外、眠気はすぐにきたようで、僕はすぐに眠りにつこうとした。ギリギリで保っていた意識を手放す前、急に頭の中に浮かんできたのは、「彼女」だった。



「ねぇ葵君!」


 そう呼ばれて、一気に目が覚めた。

 

(今のは……)


 僕は、僕のことを呼んだ声の主を知っている。それが、幻聴でも。全てを知っている上で、僕は怖かった。


 ただ名前を呼ばれたぐらいなのに、僕は冷や汗が止まらなかった。


 今の時間は、23時53分。


 僕にしては、かなり眠ったほうだ。最近は思うように眠れていなかったから。


(それよりこの汗をどうにかしなくちゃ)


 このまま起きているか、シャワーを浴びて起きているか、結果僕は後者を選んだ。


 バスルームでシャワーを出す。流れ出した水が、排水口へと流れていく様子をしばらく見ていると、なぜだか、昔の思い出が急に湧き上がってきたような感覚に駆られた。それはまるで、泉のように。



 シャワーを終えて、乱暴に髪を拭きながら出てきた僕は、ベッドに腰掛けた。


 少しさっぱりすれば、今日の出来事を忘れられるかも。なんて思っていたが、そんなことはなかった。


(これからどうしようか)


 一度眠りから覚めると、もう一度眠るというのは、僕からすると、とても難しいことだ。これから朝まで、一体何をしようか。


 ふと、僕はさっきのアルバムに目が留まった。そこで僕は、さっきの声の主のことを思い出した。


 何かが、頬を伝った気がした。それと同時に、僕の中のせき止められていたものが、勢いよく流れ出した。


 僕は、静かに思い出そうとしていた。もう二度と思い出したくないと思っていた思い出を、勢いよく流れ出したものが、穏やかになるように、ゆっくりと。

 

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