第46話 崩壊③
真司によって投げ飛ばされた私は、空中で頭の中が真っ白になっていた。
そんな私におじいちゃんが叫ぶ。
「結衣!このままだと激突する!お前の"能力"で守ってくれ!」
おじいちゃんは、お兄ちゃんを抱えて必死だった。
だけど頭が真っ白になっていた私は、叫ばれても直ぐに言われた事が理解出来ないでいた。
守る?
おじいちゃんは何を言ってるんだ?
それよりも、先ずは真司を連れてこないと。
あんな状態で一人になんて出来ない。
それに若菜ちゃんと怜くんも探さないと。
やることが一杯だ。
でもきっと大丈夫。
お兄ちゃんが来てくれたから。
これで、また五人でいられる。
また・・・
「結衣!!クソっ!」
おじいちゃんが現実を受け入れられないでいる私の身体を掴み、お兄ちゃんごと抱き締める。
「・・・あ・・・!」
その行動ようやく私は我に返り、私達の身体がぐんぐん地上へと迫っている事に気づいた。
「うっ・・・あああ!」
私は急いで自身の"能力"で水の繭を作る。
だが、あまりにも作るのが遅すぎたせいで勢いを殺せる程の十分な大きさには出来ず、私達は建っていた倉庫の壁を突き破り、建物の中に停めてあったトラックにぶつかって止まった。
「はぁ・・・はぁ・・・痛っ・・・!」
動こうとした私の身体に鈍い痛みが走る。
どうやら落下時にどこかぶつけたらしい。
だけど私は痛みを押し殺して立ち上がると、おじいちゃんとお兄ちゃんを探した。
するとお兄ちゃんは、簡単に見つかった。
私からそう離れていない場所で倒れていて、これだけの衝撃を受けたのにピクリともしていない。
そしておじいちゃんは、
「ぐっ・・・!」
「おじいちゃん!」
私達を庇ったせいで身体中から血を流して倒れており、特に頭からの出血が酷かった。
「ごめんなさい・・・!ごめんなさい・・・!私のせいで・・・!」
私は謝りながら直ぐに傷の手当てをしようとするが、おじいちゃんはそんな私の手を掴んで止めさせる。
おじいちゃんの血が掴まれた私の腕にべったりと張り付いた。
そのままおじいちゃんは、荒い息遣いで言った。
「あ、謝るな・・・儂なら平気だ・・・それよりも足を・・・止めるな・・・!」
その言葉と共におじいちゃんは、私をお兄ちゃんの方へ押しやる。
そして苦し気な呼吸をしながらも自力で立ち上がった。
「行くぞ・・・!」
「あっ・・・!」
おじいちゃんは、倉庫に落ちていた鉄パイプを掴むとフラフラしながら出口へと向かう。
私もお兄ちゃんを起こすとその身体を支えながら後を追った。
倉庫の外に出ると、顔にポツリと雨粒が当たってきた。
見上げると、分厚く黒い雲が空を覆い尽くそうとしている。
そして、それと同時に雷が落ちる音も近くで響いてきていた。
おじいちゃんは、雷が鳴った方向を睨むと私へ言った。
「・・・結衣。鈴斗を連れてこのまま行け」
「えっ?」
私は、自分の心臓が嫌な予感に鼓動が早くなったのを感じた。
おじいちゃんは、続けて言う。
「ヤツが近づいて来ている。儂が時間を稼ぐ、その間に行け」
「嫌だ!それなら私も・・・!」
「お前が居なくなったら誰が鈴斗を守る?」
「っ!それは・・・」
私はおじいちゃんの問いに上手く答えられず俯く。
そんな私の頭におじいちゃんが手を添え、柔く撫でた。
「鈴斗を頼むぞ」
おじいちゃんはそう言って撫でるのを止め、踵を返すと、雷が鳴っている方向へ早足で駆けていった。
私はお兄ちゃんを支え、強くなる雨にさらされながら、その後ろ姿を見送る事しか出来なかった。
◆◆◆
人生の最後がどうなるかなんて、誰にも分からないものだ。
例えば、病気で寝たきりだった老人の最後が、雷と戦う事になるなんて誰が予想出来ただろうか。
「今度はジジイか。そんな棒切れじゃ俺には勝てねぇよ」
ライオウは、待ち構えていた儂が鉄パイプを構えている様子を見て、つまらなさそうに言った。
そんなライオウに儂は無言で殴りかかる。
鉄パイプがヤツの頭に直撃する。
だが、とても人間の身体に当たったとは、思えない音がして鉄パイプの方が折れ曲がった。
儂は、使い物にならなくなった鉄パイプを投げ捨てるとライオウに組み付く。
そのまま首を締め上げようとしたが、その時ライオウから目映い電気が迸り、儂の全身を焼いた。
「がっ・・・!」
電気を受けた儂は、うめき声を上げて地面に倒れる。
「悪りぃが、ジジイに組み付かれる趣味はないんだわ。じゃあな」
ライオウはそう言って、倒れた儂を踏み越えて先に進もうとした。
だが、
「あん?」
儂は、飛び起きて後ろからライオウに組み付く。
そして懐に隠し持っていた、ナイフで喉元を突いた。
案の定、刃は通らずまた電気を受けて振り落とされるが儂は、立ち上がった。
それを見たライオウが先ほどとは違って、少し楽しそうに言った。
「頑丈なジジイだな。鬱陶しいし、面倒だが・・・そういう粘りは嫌いじゃないぜ」
「・・・」
儂は無言で立ち上がり、ライオウを睨む。
ライオウも儂を敵として認めたのか、唇の端を吊り上げながらも、その鋭い目は油断なくこちらを捉えていた。
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