第44話 崩壊①
私は放たれた雷の矢からお兄ちゃんを守るように水の盾を展開する。
怜くんも自分の"能力"、『物を動かす能力』を使って周囲のコンクリート片や瓦礫を盾として動かした。
そのまま雷の矢と私達が作った盾が激突し弾け、水と破片が飛び散る。
だが、それにいちいち反応している余裕はなかった。
「っ!」
私達の側面からバチっという電気が走るような音がして、高速移動したライオウが再び雷の矢を放とうとしているのが分かった。
速い、私と怜くんの防御じゃ間に合わない。
「くっ!」
だから若菜ちゃんは、咄嗟に腕を振るって、自身の『幻覚を見せる能力』を発動した。
するとライオウの周囲の空間がグニャリと歪み、放たれた雷の矢が明後日の方向へ飛んでいく。
多分、ライオウに私達の居場所を誤認させたのだろう。
「お祖父様!今の内に鈴斗を!」
若菜ちゃんがおじいちゃんに向かって叫ぶ。
おじいちゃんはそれを受けてお兄ちゃんを担ぎ、真司の身体に乗り込んだ。
全員乗り込んだのを確認して、真司が地面から飛び上がる。
ライオウは、相変わらず明後日の方向に攻撃していたが、真司が飛び上がると流石に気づいたのか、こちらの方に顔を向けた。
「そこかよ。相変わらず幻覚はめんどくせぇな・・・」
そう言って地面を蹴り上げ、ひとっ飛びで空にいる私達に迫る。
真司は、間一髪でその突進を回避すると、東京湾を横切るルートで千葉方面へ向かって飛んだ。
だが、SB区の上空付近で建物伝いに追ってきたライオウに捉えられた。
ヤツは、何本もの雷の矢を作り、真司を落とそうとしつこく攻撃してくる。
私と怜くんがそれぞれ"能力"を使って防いでいくが、ヤツの矢の量に少しずつ押されていく。
さらに、放たれる雷の矢に紛れてライオウが両手を真っ直ぐ伸ばし、上空の真司に狙いを定めた。
ライオウの伸ばした腕の間がバチバチと帯電して、一段と太く、速い雷の矢が放たれる。
そしてそれは、私と怜くんが作った盾をあっさりと貫通して、真司の翼を撃ち抜いた。
翼を失くした真司は、バランスを崩して地面へと落下する。
「くうぅっ!」
私は、真司の身体全体を水の膜で包み、何とか落下時の衝撃を和らげようとする。
そのお陰か地面に叩きつけられても、真司以外は大した怪我を負わなかった。
「っ、ぐっ・・・!」
だが真司は背中から大きく抉れ、さらに元々無理をしていたせいか、"能力"が解除され、姿が龍から人間へと戻ってしまった。
「真司・・・!」
私は真司に駆け寄るが、それと同時にライオウが現れた。
真司は、私達を守るように前に出る。
ヤツはそれを鋭い眼光で見つめ、それから口を開いた。
「七原が死んだ以上、お前らを含めて、もう反抗的な"能力"者は飼っておけねぇ。だが、俺はこの世界のありとあらゆる『力』を愛している。財力も、権力も、学力も・・・勿論、"能力"もな。だから、『力』のあるお前らを殺すのは、本当に惜しい」
そう言ってライオウは私達に手を差し出し、
誘うように言った。
「どうだ?今度こそ、俺についてこねぇか?俺の思い描く世界は、お前らみたいに『力』のある奴らの為にある。悪いようにはしねぇぜ」
「・・・」
ライオウの誘いに一瞬、私達が沈黙する。
だけど真司は、キッパリとライオウへと言った。
「答えは前にも言っただろ。変わらねぇよ・・・断る」
それを聞いたライオウは、自らの逆立った髪を撫でた後、少しだけ残念そう笑って口を開いた。
「そうか。じゃあ、もう殺すしかねーな」
その言葉と共にライオウの身体からバチバチという音がして、ヤツの全身が電気を帯びていく。
以前戦った時に見せた、ライオウの本気の状態だ。
それを見た怜くんがそっと私達に言った。
「僕が時間を稼ぐ。その間に逃げろ」
その言葉に直ぐ私が反論した。
「無理だよ!四人でも勝てなかったのに・・・それに今の怜くんの状態じゃ"能力"だって・・・!」
怜くんの状態は、真司ほどじゃないとは言え悪化している。
無理して"能力"を使ったせいで、拷問によって受けた傷口から出血して、巻いていた包帯を赤く染まっていた。
とてもではないが、まともに戦えるようには見えない。
「そうね・・・だから私も一緒に残って時間を稼ぐわ・・・」
「若菜ちゃん!?」
若菜ちゃんが怜くんを支えるように隣に立つ。
それを見た怜くんは真司に向かって言った。
「真司、意地でも"能力"を使え。たとえ飛べなくても、キミがみんなを乗せて走った方が早い。東京湾まで行けば結衣の"能力"で海へ逃げられるから」
「そん・・・!」
私は怜くんの言葉を否定しようと声を上げる。
だがその前に真司が口を開いた。
「・・・・・・分かった」
真司は、再度"能力"を使って銀色の龍になると、おじいちゃんと殆ど意識のないお兄ちゃんを背中に乗せた。
そして、まだ納得してない私を強引に手で掴んで持ち上げた。
「駄目!離して!私も戦う!」
私は真司に掴まれながら叫んだ。
彼の顔に水もかけた。
だけど真司はその全てを無視して大事そうに私を抱えると、振り返らずに東京湾の方向へ走り出した。
◆◆◆
真司達が去った後、僕は隣にいる若菜に謝った。
「ごめんね、若菜・・・付き合わせて・・・」
当然だが、勝つ算段はない。
生き残る算段もない。
力の差が大き過ぎる。
だけど若菜は、僕に首を振って答えた。
「いいのよ・・・怜の近くなら怖くないわ・・・それに・・・」
そこで若菜は、言葉を途中で区切り、間を置いてから言った。
「ねぇ、怜・・・鈴斗ってね、まだ自分の"能力"がないんだって・・・」
「?」
唐突に告げられた若菜の言葉に、僕は首を傾げる。
彼女はそのまま続けて言った。
「だから私は・・・鈴斗の"能力"が、『この世で最も強い能力』だったら良いと思っているの・・・」
「それは・・・」
僕は、若菜の意見に少し言葉をつぐんだ。
何故なら、そもそも鈴斗が助かる保障はないし、若菜が言っている事も殆どあり得ないと思ったからだ。
それに何より、そんな事になったら鈴斗は、一生、後悔しながら生きていく事になる。
もっと早く、"能力"に気づいていれば、と。
そんな僕の考えを見透かしたのか、若菜がさらに口を開いた。
「分かってるわ・・・これは私の我が儘・・・でもね、そう思えば私達がここで戦った事にも意味があったと思える・・・いつか鈴斗が救う沢山の人の為だと思えば・・・」
そう言って若菜は、少しだけ悲しそうに、だけど後悔なく微笑んだ。
僕もそれを受けて、鈴斗に申し訳ないと思いながらも微笑み返した。
そうして僕らのやり取りを黙って見ていた目の前の男、ライオウへと向き直った。
「悪いね、待って貰って・・・」
僕がそう言うと、ライオウは、なんて事無さそうに答えた。
「構わねぇよ。『力』のある奴へのせめてもの情けさ。それに、どうせ俺からは逃げられねぇよ」
言葉と共に、ライオウの身体に纏わりついている電気が、より一層輝きと勢いを増した。
「変な期待はすんなよ」
ライオウが僕らへ呟く。
僕も若菜も直ぐに"能力"を使えるよう身構える。
「ああ。若菜、いくよ」
「ええ・・・!」
そして――雷が僕らに降り注いだ。
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