第43話 雷王

 都庁周辺は、"能力"が使えるようになった人達が暴れているようで、あちこちで叫び声や建物が壊れる音が聞こえてくる。


 そんな中で銀色の龍は、都民広場へと降り立つと手に乗せていた私とお兄ちゃんをそっと地面に下ろした。


 地面にへたりこんだお兄ちゃんが龍を見上げて呟く。


「彩記ちゃんの記憶にあった龍はお前か。そういえば名前も読んでたっけ・・・?何でもアリだな、"能力"は・・・」


「彩記ちゃんって・・・!お兄ちゃん、あの子に会ったの!?」


 私が聞くとお兄ちゃんは、「ああ」と言って頷いて続けて言った。


「あの子もお母さんも無事だ。さっきも言った通り千葉に安全な場所がある。そこに二人ともいる」


「そっか・・・良かったぁ・・・!」


 彩記ちゃん達の事は、捕まってから気になっていたものの一つだ。


 それが無事だとしれて私は胸を撫で下ろした。


 そうしていると龍の背中から若菜ちゃんと怜くん、それからおじいちゃんが降りてきた。


「結衣!鈴斗!」


 若菜ちゃんが普段のおっとりとした話し方からは想像出来ないほどの剣幕さで叫ぶと私達の元へ駆け寄ってくる。


 彼女は包帯でぐるぐる巻きになっているお兄ちゃんの状態を見て慌てた様子になる。


「ああ・・・鈴斗、腕が・・・め、目だって・・・!」


 そんな彼女の肩に手を置いて怜くんが言った。


「落ち着いて、若菜。今は逃げるのが先だよ。そうだよね、鈴斗?」


「ああ。千葉のK市にある病院へ向かおう。そこならここより安全だ」


 お兄ちゃんが答えながら立ち上がろうとするので、私はまた肩を貸した。


 そしてお兄ちゃんの意見を聞いた怜くんが龍になった真司へと尋ねた。


「真司、行ける?キミの体調によるんだけど・・・」


 実は、"能力"は使用者の体調が良くないと万全に使えない。


 私や若菜ちゃんはまだしも、怜くんと真司はかなり痛めつけられていた。


 今も無理して"能力"を使っているのだろう。


 私は心配になって真司を見上げた。


 真司も私とお兄ちゃんを見ると、安心させるように短く唸った。


 そして自分の大きな身体を動かして私達が乗りやすいように屈んだ。


「行けるみたいだね・・・乗ろうか」


 怜くんに促されて、私達は真司の身体に乗り込もうとする。


 そんな中、おじいちゃんが私に近づいて言った。


「結衣、儂が鈴斗を支えよう」


「えっ、でも、おじいちゃんも怪我が・・・アレ?」


 さっき煙の中から見つけた時、おじいちゃんは、火傷を負って煙も吸い込んでいた筈だ。


 だけど今のおじいちゃんは、服こそ煤けていたが大分元気に見える。


 おじいちゃんはそんな自分の身体に手を当てて言った。


「身体が動くようになってから薄々思ってたが、どうやら儂の身体は傷や病に強くなっているらしい。ともかく怪我なら平気だ。お前は、自分の力で真司くんを守ってやれ。ここはまだ敵地の中だからな」


「あっ・・・!」


 おじいちゃんはそう言うと私の手からお兄ちゃんを引き取った。


 離れたお兄ちゃんが私に向かって言う。


「結衣、先に乗って手を貸してくれるか」


「う、うん・・・!」


 お兄ちゃんが自分の手から離れてしまった事に何故か寂しさと不安を感じたが、私は頼まれた通り先に真司の身体に乗り込んだ。


「頑張って、真司・・・」


 龍になった真司の鱗にそっと触れて額を着けた。

 それから顔を上げ、真司の身体に乗ろうとしているお兄ちゃんに手を伸ばした。


「お兄ちゃん、掴まって」


 片腕のお兄ちゃんは登りにくそうにしていたがどうにか態勢を整えると、残った左手で差し出された私の手を掴もうとした。


 互いの指先が触れる。


 あと少し・・・もうちょっとで・・・


 私はさらに身を乗り出して、お兄ちゃんに手を伸ばす。



 だがその時――






 飛んできた雷の矢がお兄ちゃんの胸を貫いた。





「・・・・・・・・・えっ」


 届く寸前だった手が力なく下がり、胸から血を流してお兄ちゃんが落ちていく。


「鈴斗!」


 下にいたおじいちゃんが抱き止めた事で地面に激突こそしなかったが、お兄ちゃんはガックリと項垂れてピクリとも反応しない。


だ!真司!早くここから・・・!」


 怜くんが大きな声で指示を出そうとする。


 だけどそれをかき消すように、私達の近くに雷が落ちた。


 焼けつくような衝撃と閃光が私達を襲う。


 そうしてそれが晴れた後には一人の長身の男が立っていた。


 鍛え上げられた身体に鋭い眼光、逆立った黒髪。


 特徴的な頬の切り傷。



 あれは・・・あれは・・・



 男は倒れたままのお兄ちゃんに視線を向けると心底つまらなさそうに口を開いた。


「あんなんで終わりかよ。騒がしくしてくれた割には呆気ねぇな」


 言いながら男はバチバチと身体を帯電させ、身体の周囲に雷の矢を作る。


 そしてそれを倒れて動かないお兄ちゃんに向けて放った。

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