第41話 嫌いな所
どうしてこんな事になっちゃったんだろう?
世界が変わってから、私はそればかり考えている。
私はただ、お母さんやお父さん、若菜ちゃんや怜くん、真司と一緒に居られればそれで良かったのに。
お兄ちゃんが一緒ならそれで良かったのに・・・
ねぇ、お兄ちゃん。
私、本当はね、お兄ちゃんのその『輝くものに成りたい』って夢が嫌いだったんだ。
だって、お兄ちゃんはきっといつかそれに成ってしまう人だから。
そして・・・誰も追いつけない場所で輝いて、燃え尽きてしまうんだ。
何で分かるかって?
そんなの見れば分かるよ。
お兄ちゃんが来て戦ってくれた事で、ここに捕まっている人達の顔つきが少しだけ変わったから。
みんな、ちょっとだけ前を見る表情をしているよ。
お兄ちゃんがそうさせたんだよ。
これは、才能とか特別だとかじゃないんだ。
意識してようとしてまいと、誰かに応える為に恐怖も痛みも置き去りにして戦える。
あなたは、そういう人なんだよ。
そして、そういう全部置いて行ってしまう所が・・・
本当に嫌いなんだよ。
◆◆◆
「結衣、結衣、大丈夫・・・?」
「んっ・・・」
お兄ちゃん達が出ていった扉の方を見てぼーっとしていると、私を心配した若菜ちゃんが尋ねてきた。
私はそれで我に返ると、若菜ちゃんに力なく笑って応えた。
「・・・大丈夫だよ。若菜ちゃんこそ顎は平気?」
「ええ、段々良くなってきたわ。それに私なんかより・・・」
そう言って若菜ちゃんは、薬が効いて眠っている怜くんと真司に目を向け、二人に謝った。
「ごめんね、私のせいで・・・」
「若菜ちゃんのせいじゃない・・・私だって耐えられなかったんだから・・・」
ライオウに負けて、ここに連れてこられてから、たくさん二人が傷つく所を見せられた。
それに加担もさせられた。
怜くんも真司も、なんともないって言ってくれたけど、ボロボロの二人を見れば、それが私達の為に吐いた嘘だったのは、はっきりしている。
若菜ちゃんは、二人から視線を移してお兄ちゃんが置いていったカプセルの容器を見た。
そして静かに言った。
「鈴斗とお祖父様は・・・勝てるかしら・・・?」
私は、若菜ちゃんのその言葉の返答に少し迷った。
頭では、もうはっきりとそれに対する答えが出ているのに、なかなか声に出せない。
声に出してしまったらお兄ちゃんの嫌いな所を認めてしまう気がする。
そんな風にしていると何かが崩れる音がして遠くからガン!ガン!という銃声が響いてきた。
部屋の中がざわつき、私と若菜ちゃんは顔を見合わせる。
そしてこの騒ぎによって、真司と怜くんが目を覚ました。
「真司!」
私は真司の名前を呼ぶ。
彼も開いた目で私を捉えると名前を呼んでくれた。
「・・・結衣?」
「そうだよ、真司・・・」
応えると私は真司の胸に顔を寄せる。
彼はそんな私をぼんやりとした目で見て、それから誰かを探すように視線をさ迷わせる。
そして少しだけ自嘲気味に笑って言った。
「へっ・・・なんか・・・鈴斗が居た・・・気がしたんだけど・・・幻覚か・・・」
どうやら真司は、眠る前の記憶が曖昧らしい。
私は彼の言葉を否定するため必死に首を横に振った。
「幻覚じゃないよ・・・!お兄ちゃんは・・・お兄ちゃんは来てくれたよ・・・!」
私がそう言うと暗く絶望に染まっていた真司の目が見開かれ、顔に光が戻った。
「マジ、か・・・やっぱりあいつかよ・・・!どこ行った・・・!?」
「お兄ちゃんは・・・」
私が真司の問いに答えようとしたその時、また銃声が響き渡った。
今度はまるで走り抜けるように音が過ぎていき、全部で5回鳴って止まった。
現状がどうなっているのか全く分からない。
だけど怜くんは、傷ついた身体を起こすと、私と若菜ちゃんへ言った。
「二人とも・・・用意して・・・きっと鈴斗は・・・勝った後の事までは考えてない。だから直ぐに動けるキミ達が彼を助けるんだ・・・」
「で、でも・・・鈴斗達が勝つと決まった訳じゃ・・・」
若菜ちゃんが怜くんの言葉に反論しようとする。
だけどその時、ガシャンと音を立てて私達を捕らえ続けていた金色の手錠が外れた。
「えっ・・・」
そのまま手錠は床に落ち、最初からそんな物は無かったかのように塵となって消えてしまう。
そして自由になった身体に"能力"を使う感覚が戻ってくる。
私は試しに自分の"能力"である『水を生成し、それを操る能力』を使って、掌に水を生成してみた。
すると直ぐに手の中にボコボコと水が溢れ出てきた。
「っ!」
怜くんが私の方を見て頷いた。
私はそれを確認して若菜ちゃんの手を引いて大会議場の出入口へと駆け出した。
まだ解放された事に混乱している人達を掻き分け、扉を開けて通路に出る。
出た瞬間目に入ってきたのは、道を塞ぐように漂う大量の煙だった。
「これは・・・!」
「下がって若菜ちゃん!」
若菜ちゃんの"能力"は『幻覚を見せる能力』だ。
声や仕草で対象に幻覚を見せる事が出来る。
対人ならとても強い"能力なのだが、こういった直接的な現象には無力だ。
私は若菜ちゃんや大会議場の中にいる人が煙に巻き込まれないようにするため、大量の水を生成し、煙に向かって水を発射した。
通路を水が満たし、煙が押し返されていく。
そうしながら進んで行くと煙と水に紛れて地面に這いつくばっている人影があった。
私はその人に見覚えがあった。
煙の煤で黒く汚れてしまっているが、その人は・・・
「おじいちゃん!」
私は叫んで倒れているおじいちゃんに駆け寄り、呼びかける。
「おじいちゃん!しっかりして!私だよ!結衣だよ!」
「うっ・・・!ぐっ、・・・!」
おじいちゃんは火傷を負っており、煙も大分吸い込んでしまったのか意識が朦朧としているようだった。
だが、やって来た私を視界に捉えると呻きながら言った。
「す、すず・・・鈴斗が・・・追って、行った・・・階段・・・頼む・・・助け・・・」
「階段!?お兄ちゃんは下の階に行ったの!?」
だがおじいちゃんは私の問いには答えず、意識を失ってしまった。
それを受けて若菜ちゃんが私に向かって言う。
「結衣!私がお祖父様を見てるから早く下へ行って!」
「うん!」
私はおじいちゃんを若菜ちゃんに任せて階段へと向かった。
幸い、階段へと続く通路にはまだ煙は来ておらず、簡単に階段までたどり着く事が出来たのだが、壁や床には何かで切り裂かれたような跡と鮮血が飛び散っていた。
血の跡は下の階へと続いている。
私はそれを追って階段を降りる。
そして、下の階では、
「糞がぁ!許さねぇ!てめぇはここで・・・!」
白いスーツを真っ赤に染め上げたジャックが、血の海に倒れている人へ向けて手刀を振り下ろそうとしている所だった。
それを見た瞬間、私は怒鳴り声を上げて走り出した。
「お兄ちゃんから離れろぉ!!!」
「っ!」
ジャックは、走ってきた私に向かって斬撃を飛ばしてきたが、私は"能力"で大きな水の手を作ると放たれた斬撃を握りつぶした。
「なっ・・・?」
自分の斬撃があっさり握りつぶされた事にジャックが衝撃を受けるが、私の水の手はまだ止まっていない。
勢いそのままにジャックを水の手で張り飛ばす。
「ぶあああっ!!」
バキバキと壁に穴が開いて、張り手によって吹っ飛ばされたジャックが都庁の外へと落ちていった。
「はぁ・・・はぁ・・・お兄ちゃん・・・!」
そして私は倒れているお兄ちゃんに駆け寄り、抱き起こした。
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