第40話 俺に出来る事
火攻めを行うのは確定として、問題だったのはどこの階で火を焚くのかだった。
同階で火を焚くと燃え広がる前に煙の匂いでバレるかもしれなかったし、下の階だと結衣達を火と煙に巻き込む恐れがあった。
そこでじいちゃんと相談した結果、上階の部屋を焼く事にした。
煙は上にいくので、上階なら結衣達を煙に巻き込むリスクは少ないし、解放された彼女達が逃げる時も逃げやすいだろうと思った。
それに天気を見た感じ、雨が降りそうだった。
これなら最悪燃え広がるのが早くても、雨で消化されるだろうという期待もあった。
俺達は、上階を制圧・・・というか上には誰もいなかったので堂々と進んで、『特別会議室』の真上の部屋を見つけると灯油と燃えやすそうな紙や布、カーペットなんかを集めて灯油をかけて、火をつけた。
そして連中が消化する為に出てくるか、上階が焼け落ちてくるまで扉の前で待っていた。
暫くすると、大分焦げ臭くなってきて、『特別会議室』から大きな音が聞こえた。どうやら中の連中は焼け落ちるまで上階の火に気がつかなかったらしい。
それを確認して、俺とじいちゃんは勢いよく会議室の中に乗り込んだ。
◆◆◆
乗り込んだ会議室の中、そこは所々で火の手が上がっていた。
中に居たのは五人ほどの男で、一人を除いて全員が白いスーツを着ている。
大体の奴に見覚えなんてないが、その中の二人だけは知っていた。
一人は一階で見た『ジャック』と呼ばれていた男だ。
そしてもう一人は、平澤さんが見せた写真に写っていた、メガネを掛けた神経質そうな男。
俺達が殺すべき相手。
「なっ!?だ、誰・・・ぎっ!」
「ごっ!」
突然入ってきた俺達に白スーツの一人が声を上げるが、言いきるよりも前に、じいちゃんの銃が、ガン!ガン!と二回音を立てて火を吹いた。
放たれた銃弾が男達の頭に直撃し、脳を抉る。
"能力"なんて発動する暇もなく、男達が絶命した。
じいちゃんは猟銃の銃身を折って弾を配莢し、新しい弾を装填する。
その隙をカバーするように俺もクロスボウを構えた。
狙いは当然、七原の頭だ。
死ね。
お前は死ね。
とにかく死ね。
「ひっ・・・!」
クロスボウを構えた俺の姿に七原が恐怖し、一瞬身体が固まる。
「馬鹿がっ・・・!」
そして、ジャックが悪態を吐き、七原の頭を下げさせ手刀を振るうのと、俺がクロスボウの引き金を引くのはほぼ同時だった。
放たれた矢と"能力"によって発生した斬撃が掠め、矢の軌道が僅かにズレる。
そうして七原の頭を狙って放たれた矢は、奴の太ももに突き刺ささり、斬撃は俺が持っていたクロスボウのリムを切断した。
「ひぃやぁぁぁーー!!!」
七原の甲高い悲鳴が部屋の中に響く。
奴は体勢を崩し、それによってジャックも一緒に倒れた。
「ちっ・・・」
俺は仕留め損なった事に舌打ちすると、リムを破壊され使い物にならなくなったクロスボウを投げ捨て、武器を腰に差していた刃に持ち換えた。
じいちゃんも装填を終えた銃を構えて倒れた七原とジャックに狙いを定める。
だが、
「舐めんじゃねぇー!」
横から生き残っていた白いスーツの男がじいちゃんに向かって飛びかかって来た。
不意打ちを受けたじいちゃんは、銃を落とし、そのまま床に倒される。
「じっ・・・!」
俺はじいちゃんの援護に向かおうとしたがその隙に、ジャックと七原が『特別会議室』から逃げ出そうとしているのに気づいた。
「行けっ!!」
じいちゃんが男とマウントの取り合いをしながら俺に向かって叫ぶ。
それを聞いて俺は、じいちゃんを置いて『特別会議室』のドアへと走った。
通路に出ると、歩けない七原を半ば引きずる形でジャックが階段の方へと逃げていくのが見えた。
一階まで逃げられると、奴らの仲間と合流されてしまう。
そうなれば勝てない。
そうなる前になんとしても、殺す。
絶対に逃がすものか。
俺は平澤さんから渡されたリボルバーを取り出すと走りながら逃げる二人へ向けて発砲する。
引き金を引く度にガン!ガン!と銃弾が発射され、壁や窓ガラスを破壊した。
銃なんて撃ったことないから、足止めぐらいになれば良いと思っていたのだが、偶然、放った銃弾の一発が階段を下りようとしていたジャックの肩に着弾した。
「ぐあっ・・・!」
銃撃を受けたジャックが体勢を崩し、七原から手を離した。
支えを失くした七原が悲鳴を上げて階段を転げ落ちる。
俺は弾切れになったリボルバーを捨てると、刃を握りしめながら走った。
「くっ・・・そ・・・!」
ジャックも手刀を構え、走ってきた俺に対し て腕を振るう。
奴の"能力"で発生した不可視の斬撃が俺を襲った。
「うおおっ・・・!」
目視は出来ないが、ジャックの腕を振るう動作で発生した斬撃の方向は分かる。
俺は手に持った刃を盾にして斬撃を弾きながらジャックに迫った。
ジャックはジリジリと後退しながら、壁に追い込まれていく。
いける。
あと少しで・・・
だが、あと一歩というところでジャックの唇がニヤリと歪んだ。
俺は嫌な予感がして、とっさに一歩下がる。
だがそれよりも早く、何故か天井から斬撃が降ってきて、刃を持っていた俺の右手を肘から切り落とした。
「っ!!!!!」
目が眩むような痛みが腕から全身を貫き、膝を突く。
さっきまで自分の腕だったモノがボトリと廊下に落ち、赤黒い自分の血液が床を濡らした。
ジャックが勝ち誇ったように俺に向かって叫ぶ。
「馬鹿が!俺の斬撃は、設置型にも出来るんだよ!無警戒に突っ込みやがって!」
言いながらジャックが膝をついた俺の首を落とすように手刀を振り下ろしてきた。
痛い。
腕も目も失った。
もう取り返しがつかないほど傷ついた。
だけど・・・それがなんだ。
諦める理由はない。
戦え。
この命が果てるまで、戦え。
それだけが俺に出来る事なんだ。
「うっ・・・あああっ!」
俺は残った左手で切り落とされ床に転がった右手を掴む。
その手にはまだギラギラと光る刃が握られていた。
そして、それを手刀を振り下ろそうとしているジャックに投げつけた。
「はっ?」
ジャックは、俺がまだ戦えるとは思ってなかったのか振り下ろした腕が止まり、間の抜けた声を出す。
その間に投げつけた腕が握った刃がジャックの胴体を深く引き裂いた。
「がはっ・・・!」
切られたジャックが一歩二歩後ろに下がり、壁にぶつかる。
そして、壁にべったりと血をつけながらズルズルと床に崩れ落ちた。
「はぁ・・・!はぁ・・・!くうっ!」
俺は荒い息を吐きながら歯を食いしばって、倒れないように床を踏みしめる。
そして投げつけた右手に残っている刃を剥ぎ取ると、壁に寄りかかりながら階段を下りていった。
下りていくと、矢の刺さった足を押さえ、頭から血を流して必死の形相で階段を下りる七原を見つけた。
向こうも俺を見つけたようで、目が合うと「あっ・・・あっ・・・」という声にならない声を上げた。
俺は最後の力を振り絞り一気に階段を駆け下りる。
七原はそんな俺を見て焦ったのか、階段を踏み外しまた転げ落ちていった。
落ちていった七原を追いかけると、奴は階の中に入り、廊下を這いつくばりながら逃げていた。
足が変な方向に曲がっている。
落ちた時に折れたのかもしれない。
俺はそんな七原にさらに迫る。
すると足音に気づいた七原は、寝転びながら振り返り必死に命乞いをしてきた。
「まっ、待ってくれ!キミは誤解している!ライオウ様の事もだ!それにあれは全部ジャックが指示した事で・・・」
ああ、そう。
まぁ、お前らにも何か事情があるんだろうな。
分かるよ。
だけど、
「知るか」
俺は七原にそう吐き捨てると、這いつくばって逃げる奴の頭に刃を振り下ろした。
血が吹き出し、七原の身体が痙攣する。
そして暫くビクビクと動いた後、奴の腕がダランと垂れさがった。
俺は刃を引き抜くと、念のためもう一度奴の頭に刃を叩きつける。
七原の身体が動く事はない。
それを確認した後、俺は刃を落とし床に倒れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます