第34話 合図
俺とじいちゃんは二人で黙々と道を進み、都庁近辺のビルの一室に身を隠した。
ちょうど都庁を見渡せる立地のビルだ。
そこからじいちゃんが双眼鏡を使って、窓から都庁の建物を見る。
そして顔をしかめた。
じいちゃんの様子に俺も自分の双眼鏡を取り出して都庁を見てみる。
そこで目に入ってきたのは、何人かの人間が組になって都庁付近を警戒する光景だった。
銃らしきものを肩から提げている者もチラホラいる。
「流石にがら空きにするほど呆けてはいないか・・・」
じいちゃんが小さな声で呟く。
そして双眼鏡から目を離して、近くにあった椅子に腰かけた。
「気張っていても疲れるだけだ。平澤くんからの合図まで身体を休めておけ」
「分かった」
俺もじいちゃんに習って、部屋にあった椅子に腰かける。
そしてじいちゃんとの間に奇妙な沈黙が流れた。
気まずいような、気まずくないような、なんとも言えない時間。
それを最初に破ったのは、俺の方だった。
「そういえば、じいちゃん身体は大丈夫なのか?なんか普通に動いているけど」
じいちゃんは、病気のせいで先日までほぼ寝たきりだった。
銃を持って単身東京まで来るなんて、とても出来なかった筈だ。
だけど今、目の前にはじいちゃんがいる。
じいちゃんが俺を見て答えた。
「問題ない。あの太陽が輝いた日から、何故か体調が良い」
「"能力"のお陰か?」
「さぁな。ただ、足手まといにはならん」
じいちゃんは力強い口調で断言した。
それはとても頼りになる一言で、俺は苦笑いしながら言った。
「それは心配してないよ。むしろ足手まといになるとしたら・・・俺の方だ」
「?」
俺は、じいちゃんに自分には"能力"が無かった事を伝えた。
じいちゃんはそれを黙って聞いて、その後、静かにそしてはっきりと告げた。
「"能力"なんぞ、有っても無くても人は死ぬ」
それはそうだ。
俺だってそれくらい学んでる。
現に、俺は"能力"者を一人殺せたのだから。
デパートにいた、あの男を。
「・・・」
「無いものをねだるな、鈴斗。今有るもので最善を尽くす以外ないんだ」
じいちゃんが諭すように言う。
俺はその言葉に返した。
「ああ、そうだな」
じいちゃんの言う通りだ。
暗殺染みた真似だろうが、目的が果たせるならそれで良い。
アイツらが無事ならそれで良い。
ドォーン!!
外で大きな爆発音がした。
平澤さんからの合図だ。
「始まったか・・・」
じいちゃんが呟き、俺に視線を合わせる。
俺もそれに応え、頷いた。
ビルから都庁周辺を確認する。
先ほどまでそこにいた見張りは、爆発のあった方へと集まっていて、俺達のいるビルから都庁への道は手薄になっていた。
「行くぞ!」
じいちゃんの声に合わせてビルから飛び出す。
そして俺達は、爆発により浮き足立っている連中の間をすり抜けるようにして都庁の中へと侵入した。
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