第33話 目的の為に

 俺とじいちゃんと平澤さんは、都内を徒歩で移動し都庁へと迫っていた。


 警戒はしていたが道中はスムーズに進めた。


 平澤さんの『目』で索敵が上手くいったのと、ライオウ達側の事情が重なったお陰だ。


 どうやらまだライオウ達には都内全域に目を光らせるだけの人員的余裕はなく、M区、SN区といった影響力の強い地域と各県の境を固めるので精一杯らしい。


 建物の陰に隠れて休憩していると、平澤さんがそう話してくれた。


「イメージすると薄く、広くって感じだ。そんな無茶な拡大をしたら普通はどっかで綻ぶんだけどな」


「だけどそうはならなかった」


 俺が言うと平澤さんが頷き、諦めたように空を見上げ呟いた。


「たった一人が止められない世界・・・いや、権力が"能力"って力に置き換わっただけで、力を持った奴が好き放題やるのは、別に変わってないか・・・割りを食うのは、いつも『良い人』なのも」


「・・・」


 俺はその言葉になんとも言えず押し黙る。

 その様子に平澤さんは笑って、和ませるように言った。


「そんな深刻な顔すんなよ。ただの大人の愚痴だ、聞き流してくれ。お前は、自分の目的を果たす為に戦えばいい」


「そうだな・・・そうするよ」


 そう言って、俺は気持ちを入れ替える。

 平澤さんも満足そうな顔をして、それ以上愚痴を口にする事はなかった。


 そのまま三人で進み続けて、代々木公園に差し掛かった辺りで平澤さんが言った。


「さて、それじゃあこっからは別行動といきますかね・・・二人はこのまま出来るだけ都庁に近づいてくれ。俺は準備が出来次第、こいつをぶっぱなす。それが合図だ。連中が騒いでいる間にどうにか潜り込んで七原を見つけて、事が済んだら神奈川方面に全力で撤退だ」


「分かった」


「うむ・・・」


 俺とじいちゃんが答えると平澤さんは、僅かに唇を吊り上げ、手を差し出した。


 じいちゃんがその手をしっかりと握って言う。


「無事でな、平澤くん」


「修造さんも・・・ご家族の無事を願ってますよ」


 そう言って平澤さんはじいちゃんから手を離す。

 そして俺の方に顔を向けると腰から黒く光る物を引き抜き、俺の方へと渡してきた。


 その手に握られているのは、回転式の拳銃、つまりリボルバーだった。


「平澤さん?」


 俺が困惑した声を出すと彼は軽く答えた。


「護身用だ。弾は入ってる5発だけ。リボルバーに安全装置はないから安易に引き金に手を掛けんなよ」


 彼はそのまま拳銃をこっちへと渡してくる。


 俺はそれを受け取りポーチに仕舞うと、今度は錠剤のケースを取り出し、赤、青、紫のカプセルを一粒ずつ平澤さんに渡す。


「これは・・・?」


 カプセルを見た平澤さんが首を傾げる。

 俺は、それぞれの薬の効果を説明した。


「赤は、『興奮する薬』だ。飲めば3日は食わなくても戦える。青は、『沈静する薬』だ。飲めば痛みが和らぎ安らかになる。紫は・・・俺にこれを渡した人は、『意地は張れず、尊厳も守れない時に飲む薬』と言ってた」


 その説明で効能を理解したのか、平澤さんが皮肉めいた笑みを浮かべた。


「随分と凝った言い回しだな。嫌いじゃない」


 平澤さんは受け取ったカプセルを胸ポケットに大事そうにしまった。


 そして改めて俺に手を差し出してきたので、俺もその手を握り締めた。


 平澤さんが小さい声で俺に呟く。


「不思議なもんだが、お前なら何かを変えられそうな・・・そんな気がするよ」


「買いかぶりだ」


「はっ・・・!買いかぶりかどうかは、これから分かるさ。せいぜい裏切ってくれよな」


「・・・頑張るよ」


 そう言って俺は平澤さんと手を離した。


 最後に平澤さんはじいちゃんに目礼すると、アタッシュケースを持ってビル街に消えて行った。


「行くぞ」


 銃を担ぎ直したじいちゃんが俺に向かって言う。


「ああ」


 俺もそれに短く返して、二人で都庁へと近づいて行った。




 *次回は、土曜日です。

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