第31話 祖父
平澤さんについて、静かな街の中を進んでいく。
気を失っている間に夜は明けたみたいで、空は雨が降りそうに曇っていた。
道中、平澤さんが色々話してくる。
「俺はこうなる前は陸自にいてな。階級は三等陸曹でそこそこ上手くやってたんだが・・・世界がこうなってからはダメダメだ。明日、自分が生きてるかも分からんよ」
「・・・」
「因みに、"能力"は『目が良くなる能力』だ。お前は?」
「ない」
「はっ?」
「俺に"能力"はない。あるのかもしれないが、きっかけがない」
俺がそう言うと平澤さんは少し考え込む。
そして暫くして言った。
「・・・そうか。まぁ、人類なんて80億もいるんだし、そんな事もあるか。それにどんな"能力"であろうと『奴』に勝てるとも思えんしな」
『奴』。
その言葉に思い当たるのは一人だけだった。
俺は平澤さんにソイツの事を尋ねる。
「ライオウの事か?」
「おっ、知ってんだな。避難した人から聞いたのか?」
「ああ。都内で勢力を伸ばしていて、強い"能力"者だけの国を作ろうとしていると聞いている。都内の人間はライオウから逃げるか、強い"能力"者は捕まって、配下に下るよう強要されてるとも・・・」
俺の言葉に平澤さんは頷く。
「概ねそれで間違いない。奴はこの事態になった当初から頭角を現していてな。権力の中枢にいた政治家、官僚を排除して宣言したんだ。『強い"能力"者は俺に下れ』ってね」
「・・・そんなんで着いていく人間なんかいないだろ」
「その通りだ。殆どの人間は無視したし、取り合わなかったよ。なんだったらライオウを排除しようとした人もいた。だけど、出来なかったんだ。何でか分かるか?」
平澤さんが俺に聞いてくる。
俺はそれにこう答えた。
「強いから、か?」
「ご名答。そうだ、誰もライオウたった一人を止められなかった。そしてその進撃に魅せられて奴を信奉した連中が生まれ、争いが起こり、結果は・・・見ての通りだ」
平澤さんが静かになった街を見渡して言う。
そのまま彼は続けた。
「各駐屯地の自衛隊は敗走して、埼玉や神奈川に退いたよ。都内から逃げられなかった不幸な連中は隠れてるか、死んだか、"能力"者ならライオウに捕まったかだ」
平澤さんが一旦話を止め、黙る。
その間に俺は彼に尋ねた。
「何故ライオウに勝てない?通信や車両は無理でも、銃は動くんだよな?それで撃ち殺せばいいだろう?」
俺は平澤さんの背中の小銃を顎で指す。
どんな"能力"であれ、当人の気づかない場所から撃ち殺せば発動する暇もなく殺せる、そう思っていた。
だが平澤さんは俺の考えを否定するように首を横に振って答えた。
「無理だな。ライオウは雷を発生させそれを自在に操る上に、本人も超高速で動き回る。それに奴の肉体は、7.62mm機関銃の直撃に無傷で耐えるほど強固だ。歩兵の携行火器じゃダメージすら通らん」
雷を発生させて操る。その上、高速で移動して、身体は銃弾に耐えるだと・・・
「それは・・・本当に人間なのか・・・?あまりにも・・・」
あまりにも、今まで出会った"能力"者とレベルが違い過ぎる。
小野寺くんや永瀬さん、会長達、俺がデパートで殺したあの男と比べても別格だ。
俺の呟きに平澤さんが反応する。
「お前がどんな"能力"者と出会って来たかは知らんが、ライオウは次元が違う。正直、勝てる気はせんよ。あの圧倒的な『強さ』を目にしちまったらな。奴に惹かれる連中がいるのも理解出来る」
そう言って平澤さんは自嘲気味に笑った。
俺はそんな彼に聞いた。
「・・・それならどうして平澤さんはまだここにいるんだ?勝てないなら逃げれば良かったんじゃないか?」
言われた平澤さんが俺に顔を向ける。
彼は自嘲気味に笑ったまま答えた。
「やられっぱなしってのは性に合わなくてね。それに・・・一矢報いたい理由がある」
そこまで言うと平澤さんはあるマンションの前で足を止めた。
「ここだ。屋上にお前に会わせたい人がいる」
入口から堂々とマンションの中に入り、階段を使って屋上へと向かう。
待っている人物に心当りはあるが一段上がる度に、少しずつ身体が緊張してくる。
そして、屋上へと繋がる扉へとたどり着いた。
扉の前で平澤さんが声を掛ける。
「目が覚めたんで連れてきましたよ、
「・・・・・・入れ」
低い声が返ってきて、平澤さんが扉を開ける。
開けた先には、白髪頭に爛々と光る鋭い眼光をした老人が立っていた。
俺はその人に向かって言う。
「じい・・・ちゃん・・・」
じいちゃんも俺の顔を見ると、その鋭い眼光を少し緩ませて言った。
「鈴斗・・・この馬鹿が・・・手紙を見なかったか?結衣と両親の事は儂に任せて、お前は自分の身を守れと書いてあっただろうが」
「手紙?」
「家に置いてあっただろう?」
言われて記憶を探るが思い出せない。
あったと言われればあったような気もするがやっぱり思い出せない。
俺は言い訳がましくじいちゃんへ言った。
「そうなのか・・・?俺、病院で結衣達の事を聞いてから、直ぐに武器とか揃えて・・・家には寄ったんだけど・・・ごめん、じいちゃん・・・」
話しながらどんどん声が小さくなる。
それにじいちゃんがため息を吐いて頭を抱えた。
非常に難しい空気が流れる。
それを変えようとしたのか平澤さんが声を上げた。
「来ちまったもんはもう仕方ないですよ、修造さん。人手が増えたと思いましょう。そっちの方が前向きだ」
平澤さんはじいちゃんの脇を通り過ぎ、そのまま置いてあったブルーシートを剥がした。
剥がされたブルーシートの下には、黒くて大きなアタッシュケースが置いてある。
「それは・・・」
俺が口を開くと、平澤さんが悪戯っぽく笑ってケースを開けながら答えた。
「84mm無反動砲。ここにいた部隊の置き土産だ。俺達が奴らに一矢報いる為の鍵だよ」
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