第28話 トンネルを抜けた先で
暗いトンネルの中を松明の灯りを頼りに歩いていく。
中は橋の上の状況と大差なく、大破した車や物が散乱していて非常に歩きにくい。
そしてとても静かで、足音が良く響いた。
(このトンネルの長さは大体10Km。普通に歩けば二時間位か・・・)
向こうに出たら夜明け前だろうか?
いかんせん、外の様子が見えないから夜か朝かも分からない。
出来れば夜明け前には抜けたいが・・・
(とりあえず進もう。進まないと何も始まらない)
そう決めて無心で足を動かす。
障害物は避けて、邪魔な物はどかし、無限とも思える暗闇の中を松明の灯りを頼りに進んでいく。
そんな風にしてどれぐらい経っただろうか。
少し足が痛み出した頃を境に空気に変化があった。
それまでのこもったような息苦しい空気ではなく、少し冷たい新鮮な空気が鼻に触れた。
さらに進んでいくと新鮮な空気に加えて、風が流れているのを感じられた。
どうやら出口に近づいているようだ。
まだ人の気配はしないが、ここからは我慢して出来るだけ闇に紛れた方が良いかもしれない。
俺はクロスボウに矢をつがえて松明を地面に置くと、壁沿いに慎重に進んでいく。
そしてある程度進むと真っ暗闇のトンネルの先で、鈍く薄暗い暗さの穴が顔を覗かせているのが見えた。
(あれが出口か)
逸る気持ちを抑え、より慎重に出口へと近づいていく。
そして、遂に俺はトンネルを抜け首都高へと出た。
外の様子はトンネルに入った時と特に変わりない。
空はまだ暗く夜明け前で、首都高には点々と乗り捨てられた車が続いている。
俺は道なりに進み、首都高から降りれそうな場所を探す。
だが暫くすると、薄暗い上空から何かが羽ばたくような音が聞こえた。
最初は鳥かと思ったが、流石に鳥が飛ぶには早すぎる時間帯な気がする。
それに音が変だ。
普通の鳥にしてはあまりにも羽ばたく音が大きい。
違和感を感じた俺は急いで車の陰に隠れた。
そして俺が身を隠したその時、上空が光った。
夜明けの光ではない。
もっと刺々しい、炎が生み出す赤い光だ。
巨大な火球が上空に浮かんでいる。
その光が空に居たものの正体を露にする。
(あれは・・・)
それは平屋くらいある巨大な鷲だった。
火の球はその巨鷲の頭の上から発生しており、さらに大きさを増すと、そのまま神奈川県側に向かって放たれた。
爆発音がして火柱が暗闇の中に上がる。
その後、遠くから人々の悲鳴と怒声が聞こえてきた。
空に居た巨鷲は羽ばたきながら降下してきて、俺のいる首都高のすぐ近くへと降り立った。
俺は羽ばたきで発生する凄まじい風圧に飛ばされないよう、隠れている車にしがみついて耐える。
そしてそのまま降りてきた巨鷲の様子を伺った。
どうやら奴は燃えている神奈川県側を見つめているようだ。
そしてその背中には誰かが乗っている。
顔までははっきり確認出来ないが、背丈からして男性だろうか?
暫くすると背中の男性が声を発した。
「流石に横浜までは届かないな」
それに巨鷲の方が少し耳障りだが確かに人間の言葉を喋って応えた。
「十分でしょーよ。毎日、こんなんされたらたまったもんじゃないぞ」
さらに巨鷲は燃えている方向を見ながら呟くように言った。
「自衛隊も粘るよなぁ。ヘリも戦闘機も動かなくて勝ち目ないんだから降参しろよ。守る国もないんだしさ」
「もう意地になってるんだろう。それかライオウ様の主張に賛同出来ないのか」
「『強い"能力"者の国を築く』って奴か・・・そんなに嫌なのかねぇ」
「まぁ、力で統べるなら反発は当然ある。仕方のない事だ。だが結局、ライオウ様は止められない。あの人は強いからな」
巨鷲が「御愁傷様」と神奈川方面に向かって頭を下げた。
そして思い出したように続けて口を開いた。
「そう言えば・・・最近捕まえた高校生がいるだろ。ライオウ様に手傷を負わせた」
「ああ、確か・・・相場なんとかって名前の奴か。ライオウ様が絶対に殺すなって言った」
「そうそいつ。なんか仲間と脱走しようとしてジャックに捕まったらしいぞ。そんでアイツが罰って名目で拷問してる」
「・・・」
「多分今頃、死んだ方がマシな目に・・・熱っ!!」
話の途中で男が巨鷲の翼に小さな火球を当てた。
そして若干イラついた口調で言う。
「早く言えよ。止めなきゃ死ぬまでやるだろ、アイツ」
「えぇ、ライオウ様の命令だぞ。流石に死ぬまではやんな・・・」
「そんな訳ない。この前もライオウ様が目を付けてた奴をいちゃもんつけて殺してるんだ。そもそも脱走ってのも怪しい。
「・・・そこまでやるの、ジャックって?」
「当たり前だ。アイツはライオウ様の一番の信奉者だからな。自分以外をあの人が気に掛けてるのが許せないんだ。ともかくジャックの所へ行くぞ。ライオウ様が埼玉方面に出ている今、勝手な真似はさせられない」
「アイツん所かぁ・・・捌かれたくねぇよ・・・」
「焼き鳥よりはマシだろ。ほら、早く」
「うぇーい・・・」
巨鷲が嫌そうな声を上げながらもバサバサと翼を動かし、再び暗い空の上に舞い上がった。
そして姿はよく見えないが翼の音から察するに、一人と一羽はM区の方向へと飛んでいった。
俺は二人が去った後、十分警戒しながら隠れていた車から這い出た。
立ち上がって奴らの言葉を思い返して考える。
(ライオウは埼玉方面に出ている・・・それは良い。『雷』がどんな"能力"かはまだ分からないが、遭遇しないならそれに越した事はない。 だが・・・ )
『そう言えば・・・最近捕まえた高校生がいるだろ。ライオウ様に手傷を負わせた』
『ああ、確か・・・相場なんとかって名前の――』
・・・落ち着け。
相場なんて名字の高校生は沢山いる。
奴らが話してたのが真司であるとは限らない。
全くの別人の可能性だってある。
そうに決まっている。
だがどれだけそう思い込もうとしても、胸の焦燥感は消えなかった。
それは俺の中で大きく膨らみ、のたうち、不愉快に胸を締め付けてくる。
「ちっ・・・!」
俺は舌打ちするとポーチから会長より貰った錠剤のケースを取り出す。
そして青いカプセルを一粒摘まむと口の中に放り込んだ。
カプセルが喉を通る感覚がして、徐々に気分が落ち着いてくる。
焦燥感に侵されていた心が晴れていく。
そうだ、焦るな。
俺はここに焦りに来た訳じゃない。
アイツらの無事を確認しに来たんだ。
こんな所で足を止めている場合じゃない。
「ふぅ・・・」
ゆっくりと息を吐き出す。
そうして俺は先を見据え、足を動かし始めた。
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