第16話 凶刃VS狂人
男は苛立っていた。
今日も病院の『虫』共を駆除出来ず、おまけに自分と佳苗の城であるデパートにまで、4匹も『虫』が湧いていた。
しかもあろうことか、仕留め損なった。
『虫』のクセに、無駄に手間を掛けさせる。
だが逃げ込んだ先は、立体駐車場。
しかも上の階へと逃げて行った。
下からじわじわ追い詰めていけば、確実に駆除出来る。
「駆除・・・駆除・・・駆除・・・」
男は、ぶつぶつと呟きながら腕を振るう。
自らの"能力"『皮膚から金属を生成し、それを射出する能力』を使い、金属片を射出して立体駐車場の車や柱、壁に穴を空けた。
だが、『虫』の悲鳴も血の匂いもしてこない。
どうやらこの階でもなかったようだ。
「駆除・・・駆除・・・駆除・・・」
男はこの世界に感謝していた。
自らに与えられた"能力"は強く、殆どの『虫』はこの"能力"の前に逃げるだけだった。
ずっと欲しかった女、佳苗もこの"能力"のお陰で手に入れる事も出来た。
後は、佳苗と自分だけの世界を作るだけだ。
その為には、
「『虫』は、駆除・・・」
男は呟きながら車両用のスロープを上がり、上の階へ上がった。
この階でなければ逃げ場は屋上だけ。
そろそろ見つかる筈だ。
だが次の階に足を踏み入れた瞬間、何か異様な雰囲気を感じた。
チリチリとした、肌を刺すような緊張感。
「・・・」
男は呟くのを止め、ぐるりと階の中を見渡す。
パッと見た所、あるのはこれまでと同じ、駐車されたまま放置された車だけだ。
『虫』の姿は見当たらない。
気のせいか?
そう思いかけた瞬間、音が聞こえた。
それはちょうど背後にあった、屋上へと続くスロープから聞こえ、振り向くと、一台の車が男目掛けて突っ込んできていた。
男は車を止めようと、"能力"を使おうとするがその時見てしまった。
運転席に座っている、一人の少年を。
『虫』には無い、男の命だけを狙う迷いのない狂気を宿したその目を。
「・・・っ!」
男は迎撃を諦め、横に飛んで車を回避しようとする。
少年はそれを見ると、ハンドルを操作して男を車で轢こうとするが曲がり切れず、駐車してあった他の車にぶつかって止まった。
地面を転がって回避した男は、膝をついて態勢を立て直す。
止まった車からも運転席のドアが開いて、運転していた少年が転がりでてくる。
「・・・駆除!」
男はその姿を見た瞬間、"能力"を使用し、無防備な少年を穴だらけにしようとした。
だが、
「やれ!宮住さん!!」
少年が、叫んだ。
それに応えるように、下の階からコンクリートを貫いて金属刀が伸びてきて、膝をついていた男の足を脛から腿まで貫いた。
「えっ・・・・・・あぁ・・・あああああーーー!!!」
男の絶叫が階の中に響き渡った。
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