第15話 それがキミという人間

 デパート内部は、外と同じようにそこまで荒れていなかった。

 まるで全ての人が逃げるようにして慌てて居なくなったみたいだ。


(一体、何から逃げたのかな?ひょっとして・・・ここが"当たり"か?)


 そう思い少しだけ焦っていると、"能力"を使いながら前を進んでいた丸山先生が足を止めた。


「どうしました?」


 足を止めた先生に尋ねる。

 すると丸山先生は洋服と化粧品コーナーの脇にある扉を指差して言った。


「あの扉・・・奥に誰か居る」


 その言葉に僕達は一斉に顔を見合わせた。


「動きはありますか?」


「いや・・・というか、両手をつり上げられて動けないようにされているみたいだ」


 丸山先生がそう言うと穂積先生が恐る恐るといった様子で口を開いた。


「あの・・・助けませんか?」


 それに反対する者は居なかった。

 ただ一応警戒はして、それぞれ手に武器を構える。


 そして扉に近づくとそっと開けた。


 そこは天井の高い、服などをしまっておく倉庫のような部屋だった。


 その中心では、裸の女性が両手に手錠をかけられて鎖でつり上げられている。


「んっ・・・んんっ!?」


 女性は入ってきた僕達に気づくと、くぐもった声を上げ、後退りした。


「大丈夫ですか。今外しますからね」


 同じ女性の穂積先生が安心するよう話し掛け、自身のジャケットを彼女に掛ける。


 その間に小野寺が、女性を捕らえている鎖を掴み強引に引きちぎった。


 解放された女性が膝をつく。

 それを穂積先生が抱き止めた。


「うぇ・・・あ、ありが・・・とう・・・」


「いいんですよ」


 穂積先生が抱き締めて、慰めている間に僕は水筒を取り出す。

 そして自分の"能力"を使って、『気分を落ち着かせる薬』を生成すると、こっそり水筒の中に混ぜて女性に渡した。


「水ですが、良かったらどうぞ」


 僕は出来るだけ優しい笑顔を作って、女性に水筒を手渡す。

 彼女は何度もお礼を言うと、それを受けとり一口飲んだ。


 すると徐々に泣き止み、ポツポツと話し始めた。


「わ、私、近藤佳苗こんどうかなえって言います。このデパートで働いてたんですけど、いきなり太陽が光って・・・その後、一人の客が急に暴れ出したんです・・・みんな逃げたんですけど、私は捕まって、ここに・・・」


 話していた女性の目に涙が浮かぶ。

 それ以上は話したくないのか、俯いて黙ってしまった。


 僕らもなんと声を掛けたらよいか分からずにいると、突然入口の方からマシンガンが炸裂するような音が聞こえてきた。


 その音に女性が怯え、自分の肩を抱く。


「こ、この音・・・!あの男の・・・!に、逃げないと・・・」


「"能力"ですか?」


 僕が聞くと女性は頷いて答えた。


「あの男は、自分の皮膚を金属に変化させて、それを飛ばしてきます・・・まず近寄れません・・・」


 彼女が話している間もマシンガンのような音は続き、そして一際大きな音が上がると静かになった。


 小野寺が少しだけ顔色を悪くして呟く。


「俺達を狙ってる訳じゃないですよね・・・これって・・・外がヤバい!いかないと!!」


「待った、小野寺くん!」


 入口に向かって駆け出そうとした小野寺の肩を掴んで止める。

 それに彼が激しく抗議してきた。


「離してください!鈴斗達が・・・!」


「そうだね、きっと風音くん達が襲われてるね。でも今の説明通りなら、相手は飛び道具持ちだ。正面からじゃ撃ち抜かれて死ぬよ」


「でも・・・!」


「落ち着くんだ。外には葛西が居る、あいつならそう簡単に死人は出さない」


 僕は言い切ると、今度は丸山先生へと顔を向けた。


「何にせよ、相手はまだこちらに気づいてない筈です。今の内に移動しましょう」


「あ、ああ・・・だが、何処へ?」


「んー、そうですねぇ・・・とりあえず、隣の立体駐車場の近くに構えておきましょうか。『彼』ならきっと、そこに行く筈です」


 そうだ。


『彼』なら――風音鈴斗ならきっとそうするだろう。


 逃げる為ではなく、ただ殺す為に。


 どんな恐怖にも足を止めない、類い稀な精神を持った狂人。



 それが、キミという人間なのだから。



 そしてそれは、この変わってしまった世界において、誰かの『希望』となるかもしれない。


 たとえそれを当人が望んでいなくても。

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