第14話 狂人の一手

 俺達は立体駐車場の中を走り、上階に置いてあった乗り捨てられた車の陰に身を隠した。


 下の階からは、マシンガンのような炸裂音が響いており、あの男が金属片をばら蒔いて、しらみ潰しに俺達を探しているのが伺える。


 俺は男が登ってこないか、階段と車用のスロープに注意を向ける。

 そうしていると柏村くんが聞いてきた。


「こ、これからどうしますか・・・!?」


「・・・」


「に、逃げる方法があるんですよね・・・!?」


「いや」


 柏村くんがすがるように聞いてくるが、俺は彼の言葉を正面から否定した。


 そのまま続けて言う。


「逃げない。ここでヤツを殺す」


「えっ・・・」


「だから協力してほしいんだ。柏村くんにも、葛西先輩にも、宮住さんにも」


「わ、私も・・・!?」


「ああ」


 俺の言葉に宮住さんが躊躇う。

 そして葛西先輩は、こちらを探るような目で見ると口を開いた。


「何か考えがあるのか?」


「ええ、一応」


「そうか・・・乗った」


「せ、先輩!?」


 俺の考えにあっさりと賛成した葛西先輩に対して、柏村くんが驚いた声を上げる。


 そんな彼に向かって先輩は言った。


「俺達が物資を求め、家族の安否を心配するなら『市街地』に居座るあの男とは、いずれ必ず激突はするんだ。それなら居場所が分かっている今の内に仕留めたい。悪いが、覚悟を決めてくれ」


「・・・・・・わ、分かりました・・・やります」


 葛西先輩の説得に迷いながら柏村くんがそう答える。

 宮住さんも、さんざん迷ったが最後にはやる、と言ってくれた。


「それじゃあ、風音。お前の考えを聞かせろ。俺達はどうしたら良い」


「はい。まず、宮住さんを――」


 俺は自分の考えをみんなに伝える。

 そして、全て伝え終わった後、聞いてみた。


「――でヤツを殺します。どうでしょうか?宮住さんと葛西先輩が大変ですけど」


「「・・・」」


 誰も答えてくれない。

 やっぱり、俺の考えじゃ駄目だったか?


 そう思っていると、ようやく葛西先輩が言葉を発した。

 そこから出た言葉は、俺の予想外のものだった。


「なんというか、御薬袋がお前を推した理由が分かった気がしたよ」


「 ?」


 会長が俺を推した理由?


 確か・・・俺が恐れてないとか、そんなんだったが、だからなんだと言うんだ?


 それが役に立った事なんてないというのに。


「せんぱ・・・」


 俺が葛西先輩に何か言おうとするが、それより早く、俺を遮って先輩が口を開いた。


「・・・無駄話だったな。忘れてくれ。それより宮住も柏村も、風音の作戦で良いか?」


「はい・・・!」


「大丈夫です・・・!」


 二人が先輩の質問に答える。

 心なしかさっきより、声が元気になっている気がする。


「?」


 それが何故なのか、やっぱり俺には分からなかったが、下の階から発生した炸裂音を聞いた瞬間、思考が切り替わった。


 かなり近づいてきている。


(さて、ここからが本番だ。アイツを殺す、それだけに集中だ)


 そうして俺達は、それぞれの持ち場へと動き始めた。

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