第13話 退避
「ぐっ・・・!」
背中からダラリと、生暖かい液体が流れる感触がする。
だけどそれに構っていられる程の余裕はない。
男が、今度は左腕を振るおうとしているのが見えたからだ。
「葛西先輩!!!」
「!!!おおっー!!」
俺が叫ぶと葛西先輩が雄叫びを上げて自身の"能力"、『身体を硬化させる能力』を使用する。
先輩の皮膚が肌色から、鈍い光沢を放つ金属性の皮膚へと変化し、大きかった体格もさらに大きなものになる。
そして、そのまま先輩は俺達を庇うように男の前に立ち塞がった。
男はその血走った目を先輩に向けると、左腕を振るう。
また無数の金属片が飛来し、硬化した先輩に直撃した。
ガキンと金属同士がぶつかる。
「きゃあっ!」
「うわぁ!!」
弾かれた金属片が勢いのまま周囲に飛散し、宮住さんと柏村くんが悲鳴を上げるが、葛西先輩に傷はつかず、俺達にも当たらなかった。
それを見た男は直ぐ様、葛西先輩ではなく俺達の方に狙いを変え、腕を振るう速度を上げて大量の金属片を飛ばしてきた。
マシンガンのような猛攻が俺達を襲う。
「ちっ!!」
葛西先輩がその攻撃を全て身体で受け止め、防いでくれるが俺達を庇うのに必死で動けない。
その間に男は、今度は自分の右足の爪先から金属を生成していく。
1メートル位の長さがあり、それは最早、金属片ではなく刀と呼べるものだった。
それを俺達を庇って動けない葛西先輩へ目掛けて、蹴り飛ばしてきた。
空気を切り裂きながら、金属刀が葛西先輩にぶつかる。
するとこれまでとは違う、鈍い金属音がして先輩とその後ろに隠れていた俺達は吹っ飛ばされた。
コンクリートが抉れ、激しい土埃が舞う。
「うっ・・・!先輩!?」
土埃のお陰か一旦攻撃が止み、俺は葛西先輩に駆け寄る。
先輩の身体は、さっきの金属刀の直撃を受けた部分が不自然にへこみ、血がにじんでいた。
先輩は起き上がると俺に言った。
「風音、二人を連れて逃げろ・・・!今なら攻撃が止んでる・・・!逃げる時間は俺が稼ぐ・・・!」
「駄目です!出た瞬間、蜂の巣にされます!」
先輩がいないとあの金属片を乱射されて終わりだ。
宮住さんも柏村くんもアレを防げるような"能力"じゃない。会長達も無理だ。
俺に至っては"能力"すらない。
「だが・・・どうする?このままでは・・・」
「分かってます!だから・・・!」
考えろ。
"能力"がないなら考えろ。
葛西先輩でもあの金属刀の攻撃は、そう何発も防げない。
そもそもこんなレベルの遠距離攻撃をしてくる相手に、広くて見晴らしの良いこの駐車場では勝ち目がない。
(狭い所・・・デパートの中・・・は駄目だ、会長達がいる。これ以上人数が増えたら葛西先輩が庇えなくなる。俺達でこいつを引き離すしかない)
俺は晴れてきた土埃の中、周囲を見渡して狭くて見晴らしの悪い場所を探す。
そしてそれは思ったより近くにあった。
デパートの脇にある立体駐車場だ。
「先輩!あっちの立体駐車場の方へ!」
「・・・向こうだな。一気に出るぞ、俺から離れるなよ」
先輩が身構える。
俺は倒れたままだった宮住さんと柏村くんを脇に抱え、先輩の後ろに隠れた。
「いくぞ!」
先輩の掛け声と共に土埃から出る。
その瞬間、大量の金属片が散弾となって襲ってきたが、先輩が盾になってくれた。
だがまた男が右足の爪先から刀のような金属を生成し始める。
それを見た俺は柏村くんに言った。
「柏村くん、"能力"を使え!奴の顔に向かって!」
「うえっ・・・!は、はい!」
柏村くんが男に向かって手を向ける。
彼の"能力"である『指先を光らせる能力』が発動し、男に向かって照らす。
勿論、これに殺傷力はない。
だがそんな事を知らない男は、柏村くんの手から放たれた光を受けて、こちらへの攻撃を中断して物陰に身を隠した。
「今だ!走れ!」
その間に俺達は全力で走って、立体駐車場の入口までたどり着く。
攻撃じゃない事を悟った男が物陰から出て、爪先に生成した金属刀を蹴り飛ばしてくるが。
しかしそれは、狙いが外れて立体駐車場の入口を吹き飛ばしただけに終わった。
勢いを失った金属刀が地面に突き刺さる。
「上へ!」
俺達はそれを確認するとひたすら上階を目指して、立体駐車場の中を駆け抜けて行った。
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