第12話 凶刃
『市街地』の大通り。
その通りを警戒しながら俺達は進んでいく。
目指しているのは、『市街地』の中心部である、駅前から少し外れた大型デパートだ。
みんなで相談した結果、出来るだけ物資が多そうな場所を探して早めに戻る事にしたのだ。
本当は、コンビニやスーパーなんかにも寄って食糧を集めたかったのだが、それは諦めた。
理由は単純で、『市街地』が死体だらけだったからだ。
宮住さんが見つけた一体だけではない。
道路の上、建物の隙間といった至る所に死体がある。
そんな中、休憩中に道路の上にあった死体を観察していた会長が呟いた。
「刺殺だね」
「刺殺・・・?」
俺が聞き返すと会長は頷き、続けて言った。
「どの遺体も損壊が酷いけど、致命傷になってるのはどれも刺し傷だよ。ほら、見てご覧」
会長が観察していた死体を指差す。
指された場所を目を凝らしてよく見ると、肉片の中にキラリと光る金属の破片みたいな物があった。
それはどうやらコンクリートに深々と貫通していて、そのせいでよく見えなかったらしい。
俺はその金属を見て言う。
「そうとう鋭利な・・・刃ですね。日本刀みたいな・・・」
「いや、ただの刀じゃこんなに深々とコンクリートに刺さらないよ。もっと鋭利で、凶悪だ。そして、そんな金属を作る手段は、現状一つしかないよね」
会長がこちらを見る。
俺は考えるまでもなく言った。
「誰かの"能力"で作られた物って訳ですか」
「うん。まぁ、『刃を出す能力』とか、そんな感じかな?『市街地』の状況から考えるに、ソイツが暴れ回ったって感じじゃない?」
そう言うと、会長が丸山先生達の方へ向かう。
きっと、今分かった事を報告しに行ったのだ。
その場に残された俺は、刺さってコンクリートに埋まったままの金属を見て思う。
もしも、これをやった奴がまだ生きているなら、そうとうヤバい奴だろう。
"能力"もない俺なんかが接敵したら、何も出来ずに殺されるだけだ。
なのに、相変わらず怖いとは思わない。
むしろ、心にあるのは言葉に出来ないモヤモヤとした気持ちだけだった。
「鈴斗!そろそろ行こう!」
小野寺くんが焦った様子で俺を呼んだ。
会長の伝えた情報でさらに警戒心が上がったみたいだ。
「ああ、直ぐに行くよ」
呼ばれた俺はそう答えると、最後にもう一度、死体を見た。
別に知り合いではない
どんな人間だったのかも分からない、刺し貫かれ、目を見開いたままの死体だ。
「・・・」
俺は、その死体の目元にそっと手を当てると、瞼を閉じさせた。
そうすると、少しだけ心のモヤモヤとしたものが消えた気がした。
◆◆◆
それから少し進んでいくと、ようやくデパートへたどり着いた。
街の様子に比べればデパートはまだ外観を保っており、周囲には死体もなく荒れていない。
駐車場に乗り捨てられた車の陰に隠れると、丸山先生がみんなへ言った。
「よし、色々あったがこれから建物の探索に入る。来る前も言ったが、最初に入る俺と穂積先生、小野寺、御薬袋だ。後のみんなはここで待機。安全が確認出来次第、穂積先生の"能力"で連絡するからな」
「あの・・・連絡がない場合は・・・?」
柏村くんが尋ねると丸山先生は、苦笑いを浮かべ葛西先輩の方を見た。
それを受けて先輩が、少し緊張した口調で言う。
「もし連絡がない場合は、俺の判断で学校まで撤退する――でいいですか、丸山先生?」
「ああ、それでいい。・・・そういう事だ、柏村。お互いの無事を祈ろう」
「は、はい・・・」
それで柏村くんが口を閉じる。
彼以外からは誰からも意見が出ない。
それを確認すると先行する四人は、建物の中に入って行った。
「「・・・」」
残された俺達の間に会話はない。
みんな不安そうに入口を見つめるだけだ。
俺も暫くそうしていたが、ふとデパートの外観に目を向ける。
そしてある事を思った。
(なんか・・・いやに綺麗過ぎじゃないか?)
普段の状態からすれば十分汚れているのだろうが、それでも『市街地』の街の様子と比べると、建物が綺麗過ぎる気がする。
とはいえ、こんなもんだろと言われればそんな気もするし、だから何だと言われれば言い返せない。
これは、ただの俺の違和感でしかないのだから。
(俺も気づかないだけで焦ってるのか?気にし過ぎか?)
そう思って頭を振り、少し気分を紛らせる為に駐車場全体を見る。
そして、また思った。
(死体、無さすぎじゃないか・・・?)
勿論、死体が無いのは良い事だ。
たどり着いた直後は、みんな死体が無いのに安堵した位だ。
でも、よくよく考えるとおかしくないか?
デパートなんて、真っ先に荒らされててもおかしくない筈だ。
その分、死体だって多くて然るべきではないか?
それをされてないのは、単純に考えて――
それが出来ない位、ここがヤバい場所だからじゃないのか?
違和感が、嫌な予感に変わっていく。
もしかしたら、俺達はとんでもない間違いをしたのではないか?
「あの・・・葛西先輩・・・」
「どうした、風音?」
「・・・中の人を連れ戻して、ここから離れませんか?」
「何・・・?」
「風音くん!?」
「ど、どうしたんですか・・・風音先輩?」
「実は・・・」
俺は、これまで感じた違和感を話し、嫌な予感がする事を三人に伝えた。
話しを聞き終えた葛西先輩が、苦虫を噛み潰した顔で言う。
「気付けなかった俺が言えた義理ではないが、そういう事は早く言って欲しかった」
「すいません・・・」
「えっ、えっ・・・!?ここが、会長が言ってたヤバい奴の拠点って事ですか・・・!?」
俺が謝ると柏村くんが立ち上がり、早口で焦った様に言う。
そんな彼を落ち着かせるように宮住さんが口を開いた。
「か、柏村くん・・・落ち着いて・・・まだ風音くんの予想でしかないから・・・」
「あっ・・・ああ、そ、そうですよね・・・!先輩の予想ですよね・・・!すいません、焦りやす・・・く・・・て・・・あ・・・」
宮住さんの言葉に納得仕掛けた柏村くんだったが、その言葉が尻すぼみに小さくなる。
だがそれとは反対に、その目は駐車場の入口に、一心に注がれている。
俺と宮住さんと葛西先輩も柏村くんが見てる方に目を向けた。
そこには、
ボロ切れのように擦りきれたスーツを着て、血走った目でこちらを見ている一人の男がいた。
「う、あ・・・」
宮住さんが声にならない悲鳴を上げる。
それと同時に男が自分の右腕を胸の高さまで持ち上げた。
すると、男の右腕の皮膚がボコっと膨らみ、岩肌のような刺々しい外観に変わる。
そして、思いっきり右腕を横薙ぎに振るい、刃のように尖らせた金属片を飛ばしてきた。
(マズい・・・!!!)
「伏せろ!!!」
俺が叫ぶと、葛西先輩は瞬時に頭を下げる。
だが、柏村くんと宮住さんは僅かに反応が遅れた。
俺は遅れた二人の身体を掴んで頭を下げさせるが、そのせいで自身の回避が遅れ、背中から電気が走ったような痛みが駆け抜ける。
「ぐっ・・・!」
直撃はしなかったが、僅かにかすったらしい。
そして、躱した俺達の真上を金属片が通り抜けて背後のデパートに当たり、ガンガンと音を鳴らしながら壁や入口を穴だらけにした。
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