第11話 市街地
準備を整えて校門前に集まった俺達に向かって丸山先生が言う。
「まず今回の目的は食糧の確保と情報収集だ。食糧はスーパーやコンビニから、情報収集は探索中に随時行っていく。基本的に移動は全員で。だが建物に入る場合、まずは俺、穂積先生、御薬袋、小野寺が入って安全確認をする。それ以外の者達は外で待機だ。もしも待機中に何かあったら・・・葛西、お前が指示を出してくれ」
「分かりました」
丸山先生の言葉に葛西先輩が頷く。
それを見た先生はみんなを見回して続けた。
「正直、『市街地』では何が起きるか分からない。相談出来るのもこれが最後かもしれない。みんなの方から何か話しておきたい事はないか?」
みんなにそう尋ねると、僅かに間が空いた後で宮住さんが手を上げた。
「あの・・・出来れば自宅に行ってみたいです・・・出来ればですけど・・・」
それに続いて柏村くんも声を上げた。
「あっ、僕もです・・・家族がどうなっているか知りたい・・・です」
二人ともおずおずといった様子で控えめな言い方だったが、言葉の端から固い意志が感じられる。
丸山先生は、二人の意見を聞いて口を開いた。
「・・・そうだよな、気になるよな・・・他のみんなはどうだ?気になるか?」
丸山先生がみんなに聞くと、宮住さん達以外の人も頷いて答えた。
それを受けて先生は言う。
「分かった。それじゃあ探索しながら、それぞれの自宅にも寄ってみよう。ただし、あくまで全員の安全が最優先だ。自宅が近づいたからといって、先走った行動は取らないようにな。いいか?」
丸山先生に言われてみんなが再度頷いた。
それを確認した先生は、一息吐くと真剣な顔になる。
「よし、それじゃあ行くぞ。先頭は俺と穂積先生だ」
そう言って丸山先生が『市街地』に向けて歩きだす。
俺と小野寺くんは、校門まで見送りに来ていた永瀬さんに手を上げて別れを告げると、先生について、『市街地』へと向かって行った。
◆◆◆
千葉県K市の『市街地』
そこは昔から港町として栄えており、1900年代後半からは、首都圏発展計画によって都市開発が進められていた。
そして今では、東京湾を横切るような大きな橋も作られ、交通の便の向上から大型商業施設やニュータウンが立ち並ぶ、関東圏屈指の住みやすい街となっていた。
・・・その筈だった。
「なんだコレは・・・」
学校から出て山を下り、歩き続けて数十分。
ようやく足を踏み入れた『市街地』の大通りの状況を見て、丸山先生が絶句する。
そこには――
叩き潰されぺしゃんこになった車、
ひび割れた道路、
倒壊し、瓦礫となった建物、
俺達の眼前に広がっていたのは、ほんの一週間前まで『市街地』と呼ばれていた都市の・・・
破壊され、機能を停止した残骸だけだった。
「マジかよ・・・」
小野寺くんの声が人っこ一人いない大通りに響く。
当然だが俺達以外、生きている者は見当たらない。
そう、少なくとも生きている者は。
「あ、あれって・・・」
周囲を見回していた宮住さんが何かに気づいたように震えた声を上げる。
「どうしましたか?」
穂積先生が宮住さんに答えると、彼女はある一点を指差す。
それは横転した一台の車で、砕けた車のガラスが周囲に散乱している。
そしてその車の陰に、まるで紛れるように、人間の腕と思わしきものが、力無く地面に投げ出されていた。
丸山先生が”能力”を使って腕を見てみるが、それを見た先生は難しい顔をして首を横に振った。
「体温は見えない。もう、亡くなっている・・・」
丸山先生の言葉を聞いた瞬間、宮住さんが口元を押さえてうずくまった。
直後、「うえっ!」という声と共に酸っぱい匂いが漂ってくる。
慌てて穂積先生が宮住さんに寄り添い、優しく彼女の背中をさする。
彼女は呼吸を荒くしながら何度も「すいません・・・!」と謝るが、誰も宮住さんを責める気はなかった。
ここまでとは想像していなかった。
この『市街地』の惨状も、遺体がただ野晒しになっている現実も。
この戦争の後のような有り様さえも。
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