1章
第8話 メンバー
「おーい、風音くん。こっちだ」
校庭に行くと会長が待っており、俺に気づくと手を振ってきた。
それを目印に彼の元へと向かう。
「遅くなってすいません」
「いや、丁度良いタイミングだよ」
そう言って優しげに笑った会長の姿は先ほどまでの制服ではなく、動きやすそうな登山用のジャケットを羽織ったものに変わっている。
会長は俺の視線が服装にいっているのに気づくとそれについて説明してくれた。
「登山部から拝借したんだ。何が起きるか分からないから、せめて動きやすい方が良いと思ってね。勿論、キミの分も用意してあるよ。こっちだ」
会長が歩き出したので俺もそれに一緒についていく。
道中で会長が話し始めた。
「『市街地』へ行くメンバーは、部室棟の方で準備していてね。これから顔合わせをするんだ」
「そうですか」
校庭から部室棟までそんなに距離はないので、会長と話しているとあっという間に部室棟の姿が見えてきた。
二階建てのプレハブユニットで、建物の入口では4人ほど集まっている。
会長がその内の一人に呼びかけた。
「丸山先生、最後の一人を連れてきました」
「おお、御薬袋、待ってたぞ。それと呼んだのは風音だったか。来てくれてありがとうな」
「いえ」
会長が呼びかけたのは、こうなる前はウチのクラスの担任をしていた丸山先生だった。
先生は会長と同じように登山用のジャケットを着ており、妙に様になっていた。
そして丸山先生の隣には、今年から新任で赴任してきた女性教師の穂積先生が、そのさらに隣には、名前は知らないが不安そうに顔を青ざめさせた男子生徒と、初日に”能力”によって腕が伸びた同じクラスの宮住さんがいた。
これで俺と会長を合わせて計6人だ。
会長は前に四人一組の2チームと言っていたからメンバーは全部で8人の筈。
後2人は誰だろう?
そう思っていると部室棟の二階から音がして、段ボールを抱えた男子生徒が降りてきた。
彼も会長達と同じように登山用のジャケットを着ており、かなり長身でがっちりした身体をしている。
容貌もその身体に見合った厳つい顔立ちだ。
彼は俺達の元まで来ると、抱えていた段ボールを地面に置き、野太い声で先生達に言った。
「先生、二階にあった使えそうな物はこれで全部です」
「ああ。わざわざありがとうな、
彼が持ってきた段ボールの中には、金属バッドに折り畳み式の小型スコップやピッケル、登山で使う杖などが入っていた。
葛西と言われた男子生徒は、丸山先生にお礼を言われると頭を下げる。
そして、俺の方に一瞬だけ視線を飛ばしてきた。
その様子に会長が俺に耳打ちした。
「容貌で誤解されやすいが、彼は別に睨んでる訳じゃないんだよ。キミに興味があるだけさ」
「気にしてません。それより知り合いなんですか?」
「ああ、実家が近くてね。昔から知ってるよ。忍耐強くて頼りになる奴だ」
実家が近い。
つまり幼馴染というものか?
俺にとってのアイツらみたいに・・・
「どうかしたかい?」
「いえ、何でもありません。これで7人ですが、もう一人はどこですか?」
「ああ、最後の一人は、校内で色々やってくれてて・・・おっ、噂をしたら戻ってきたね」
会長が校舎の方を見ながら言う。
俺も同じ方向に顔を向けると、そこにはこちらへ走ってくる二人の人影があった。
一人は制服で、長い黒髪と揺れるスカートの裾から女子生徒だと分かる。
もう一人は男子生徒で、両手、脇、背中にペットボトルを抱えている。
そして会長達と同じように登山用のジャケットを着ていた。
・・・というか、ここからでも分かるが小野寺くんと永瀬さんだ。
彼らは、俺達の元まで来ると直ぐに報告し始めた。
「遅くなってすいません!水持ってきました!」
「それと校内にマッチとか包丁とかもあったので、これも一緒に」
「ありがとう、二人とも。さて、これで全員揃ったね」
会長は二人に労いの言葉を掛けると丸山先生へと目配せした。
先生がそれを受けて口を開く。
「それじゃあ全員集まったし、先に自己紹介と自分の”能力”の説明をしておこう。先ずは俺から。知ってる子もいるだろうが、このメンバーのリーダーを務める2年B組の担任、丸山だ。持っている”能力”は『熱源を視認する能力』だ。サーモグラフィーみたいなモノだと思ってくれ。では穂積先生・・・」
丸山先生は簡単に自己紹介を終えると隣に話を振る。
そして振られた穂積先生が話し始めた。
「私は今年から赴任した、現代文の穂積です。”能力”は『離れた人に言葉を届ける能力』です。こんな風に・・・」
穂積先生が目を閉じ、何かに集中する。
すると頭の中から『聞こえますか?』と言う声が響いてきた。
「おおー!聞こえますよ!なっ!」
小野寺くんが周囲に賛同を求めると他の人も頷いた。
どうやらみんなにも聞こえたらしい。
穂積先生は続けて言う。
「ただしこの”能力”では会話は出来ず、私からの一方通行になります。それと伝える側が離れ過ぎてたり、精神的に追い込まれていると声は届きません」
それで穂積先生の話は終わり、次に顔色の悪い男子生徒が緊張しながら喋り始めた。
「い、一年の
柏村と名乗った男子生徒は、自分の”能力”を説明し終えると頭を下げた。
その後、宮住さんが話し始める。
「二年の宮住です。”能力”は『身体を伸ばす能力』です。腕とか足とか・・・伸ばしたいと思った部位を伸ばせます。でも伸ばせる部位は一ヶ所だけ。例えば、腕を伸ばしてる時に足を伸ばすとかは出来ません」
宮住さんも自分の”能力”の説明を終え、隣の人物に顔を向けた。
それを受けて長身の厳つい男子生徒が野太い声で話し出した。
「三年の
葛西先輩は、自分の”能力”を簡潔に述べて黙る。
それから今度は小野寺くんが元気に声を上げた。
「二年の小野寺です!自分の”能力”は『身体能力を上げる能力』です!車1台位なら割りと余裕で持ち上げられますから、荷物持ちは任して下さい!」
小野寺くんは、そう言って白い歯を見せて笑い胸を張った。
次に会長がいつもの優しげな口調で言う。
「生徒会長だった
そう言って会長は俺の方を向いた。
・・・最後は俺の番か。
ある程度想像していたとは言え、当たり前のようにみんな”能力”があって、どれも役に立ちそうなモノばかりだ。
先生達は索敵に連絡に――
柏村くんと宮住さんは探索に――
葛西先輩と小野寺くんは荷物運びに有事の際の武力に――
会長は怪我した時の保険に――
俺には、何もない。
ただ会長に頼まれたからここにいるだけだ。
会長は誘った理由を、俺がこの状況を恐れてないからとか言ってたが、そんなモノが役に立つとはやっぱり思えない。
でも、本当にそんな何の役にも立たなかったモノで良いなら、出来る限りの事はやってやる。
その代償が自分の命になった所で、アイツらに比べれば、惜しむほどの価値はない。
そう思うと少しだけ心持ちが軽くなった。
その軽くなった心のまま言う。
「二年の風音鈴斗です。”能力”は、ありません」
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