第6話
翌日正午、再び森の中にいた。
食料探しは捗らず、彷徨いながら集めていた。量は一人分にも満たない。もっと集めやすい場所を探すべきか。
「あそこ見て」
レイカの指差す先に小屋が見えた。森の中に自分達のものと似た拠点が、岩の傍らに立っていた。苔と蔦に覆われ一目では見逃してしまいそうだ。
小屋に入ると、そこは拠点と同型だった。薄暗く、部屋の隅には錬成台がある。また錬成台の前に横たわる影がある。
「誰かいるぞ」
影は小柄な少女だった。黒髪のショートヘアで、か細くなった息をかろうじて繋いでいる。目をうっすらと開き、口をわずかに動かした。
「どうした、何があった」
「ひ、ひと……?」
「大丈夫か、なにかにやられたか」
「た、たべもの……」
「空腹か」
貴重な食料ではあったが、このまま死なれても目覚めが悪い。男だったら放置したかもしれないが、美少女のようだ。
レイカに一つ二つとベリーを口に運んでもらうと、急に起き上がり、掻き込み始めた。
「おいおい、一気に食べるな。俺達の分も残してくれ」
取り上げようとすると腕をかじられた。たまらず腕を引っ込めると、少女は犬のように食べ始めた。
「俺らの食い物が」
「しょうがないわ。このままだと餓死していたもの」
「優しいんだな」
「その分働いてもらうわ」
「ですよねー」
レイカは微笑んでいたが、最近その笑顔が怖くなってきた。
「それよか食いすぎなんだよ」
頭をぺしっと叩くと、少女は驚いたように顔を上げ、ようやく食べるのをやめた。
「くはー、食べたぁ。満腹じゃないけど感謝するよ」
「感謝だけじゃ困るんだよ、こっちは今日の飯を食われてるんだ」
「それはごめん。僕もそんなつもりはなかったんだけど、人間死ぬ直前だと人が変わるね」
「元気じゃねえか」
「数日間なにも食べなかったことある? 結構しんどいんだよ。それで君たちは? 僕はイオン」
「俺がリク。そっちがレイカだ」
「よろしくね、イオン」
「きれいなお姉さんだね、カップルなの?」
「違うわよ。どちらかと言えば主従関係よね?」
「あ、はい」
「ふぅん、色々あるんだね。それよりも二人は気づいたこれ?」
「あぁ、錬成台のことか?」
「僕もう夢中になっちゃってさ。付与、最高じゃん。こんなの他にはないよ」
「そうなんだよな。こんな物がなぜここにあるのか」
「僕はここって異空間なんじゃないかって思うんだ。だってここって本土からそんなに離れてないはずなのに、まるで知られてないし」
「夢かもしれないけどな」
「そんな夢のない話を言わないでよ」
腰に手をあて頬を膨らませるイオン。少年のような少女だが、どこか女性らしさもある。まだ成長途上の体のラインや、しわのない張りの肌、童心からくるきれいな瞳。
「付与に夢中で飯抜いたのか」
「抜いたんじゃなくて忘れてたんだ」
「同じだよ」
「それで私としては食料を只であげたつもりはないんだけど?」
いつまでも会話の進まない俺達をみかねて、レイカが口を挟んだ。
「僕にあげられるものがあるとしたら知識かなぁ。付与知りたいでしょ」
「飢えの足しになるのならね。今はなによりも水と食料が必要よ。できるだけ利用価値の高い情報が欲しいわ」
「いいよ。実は喋りたくてしょうがないっていうのもあるんだけどさ。まずは基本的なところから」
付与には腕力と敏捷と体力の付与があるとのことだった。これは基礎的な能力の向上で、付与の中でも一般的なものらしい。
付与の有無では大きな差があり、更にグレードをあげると常識からかけ離れていくとのことだ。
「そんなことどこかに書いてあったか?」
「実は言語の付与があって、それを付けると、この錬成台の細かい言葉も読めるようになるんだ」
「まじか」
「まじまじ。この付与、可能性がすごいよ。家も造れるみたいだし、色々なことができる。お姉さんの欲しがってる水と食料だけど、水ならろ過装置があるよ」
そう言ってイオンは近くにあった桶を持ち上げた。
「この中にろ過の付与をした石を入れておいたんだ。実験的に少し泥の混じった水を使ったんだけど、付与した石に泥が吸着したみたい。すごいでしょ!」
「これは使えるな」
「肝心なのは食料よ」
「それなんだけど、今のところ食料を生み出す付与は見つかってないかな。一からなにかを生み出すのは技術もコストも高いみたい」
「あったら倒れる前に使ってるもんな。そういえば魔力に触媒が必要みたいだし」
「触媒は魔力のこもった素材のことみたいだね。取ってきたものを錬成台で抽出するみたいだけど、詳しくはまだ知らない」
「話が脱線しているわ。食料はどうするの」
「あとは火の付与を石に使えば、焚火代わりになるよ」
「それはすでに知ってるんだなぁ」
レイカ様は無言で腕を組んでいた。
「それから?」
「そ、それからっ? ほ、ほら、生肉さえ手に入れれば肉焼けるじゃない」
「そのお肉はどこで手に入れるのかしら?」
「えーと、自分たちで?」
「それから?」
「えーと、僕が頑張りますね」
「ちゃんと取ってね」
「お兄ちゃん、この人怖いよーーー」
「分かる」
しがみついてきた妹分に、うなずきで返した。
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