第5話

 突然グーでぶん殴られて星が舞った。スローモーションに動く背景を見ながら、レイカの拳が再び見える。


「待った待った! すまん」


「待つわけないでしょ。おバカさん」


 怒っているように見えなかったが、意外と武闘派なレイカ様は、拳を握りしめている。しかし構えたまま動きを止め、首をかしげていた。


「なにをしたの。身体が動かない時がある」


「何もしてないぞ」


「嘘おっしゃい。だったら私の今の状況をどう説明するの」


「分からない」


 レイカは再び拳を振り上げようとしたが、その動きは途中で止まった。


「なにをしたの。正直に言いなさい」


「正直に言ったら怒らない?」


「怒るわ」


「正直ぃ!」


「できるだけ怒らないであげるから言いなさい」


 顔をのぞくとレイカも視線を向けていた。視線が交錯し、互いの気持ちもなんとなくだが察せられた。


 ひとまず実践したことを説明した。


「呆れたわ。私を洗脳しようとしたわけ?」


「……はい」


「もう一回殴って良い?」


「怒らないって言ったじゃないか」


「できるだけね」


 微笑みながら千切れそうなくらい頬をつねられた。


「とりあえず洗脳は禁止。分かった?」


「はい。すみません」


「分かったならこの髪留め早く取って。自分では取れないから気味が悪い」


「本当?」


「本当よ。早く取りなさい」


 頭を向けてくるレイカに、渋々髪留めを取った。


「先に脱いでもらえば良かった」


「なにか言った?」


 ぶんぶんと首を振った。


「髪留めは私が預かるわ。あなたに持たせてると危なくてしょうがない」


「ごもっとも。でもフェアにいかないか。二人とも手に取り辛い所に置いとこう」


「虫の良い話ね。私、お嬢様だけど、一応護身術を習っていたの。使う機会なんてなかったけど。拳とどちらが怖いかしら。今度は止まらないわよ」


「渡します」


「よろしい。良い子ね」


 レイカは髪留めを受け取ると、朗らかに笑った。頭を撫でられ、逆に恐怖でしかなかった。

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