第4話
しばらく歩いて水とベリーを手に小屋へ戻った。小屋には桶やツボがあり、水や食料を保存できそうだった。壊れた物も多いが。
小川と小屋を往復して、十分な水を確保し、ベリーを手づかみに空腹を満たしていた。
「火も起こすの? まだ昼を少し過ぎたあたりよ」
「素人が火を起こすのは大変だろう。暗くなってからじゃ何も見えなくなるし」
「なるほど。少しは見所ありそうね」
「それは光栄です」
手で火を起こすには、おが屑のような燃えやすい物と、火種が必要なはずだ。乾燥した木材もあると良いのだが。
そういえばメモに関連した記載があることを思い出した。
メモに再び目を通す。枚数だけでも三十枚あったが、最初の方に記載があったはずだ。
『火の付与。火の力を物体に与える術。効果は与えた魔力量による。魔力については触媒から抽出する等して、錬成台へ蓄えておく必要がある。火種から殺傷力の低い爆弾まで様々なケースで使える。効果時間と効力は実践で試せ』
『防護の付与。物体に、敵からの攻撃を緩和させる効果を付与する。付与ありとなしとでは大きな差がある。死なないという甘ったれた認識は早く捨てろ』
文章に私感が込められていたが、どちらも有用と考えられた。死という言葉に実感はなかったが、備えておく必要はあるかもしれない。
問題は魔力で生憎そんなものを扱ったことがない。触媒から抽出するものらしいが詳細は不明だ。
メモによると錬成台は魔力を蓄積できるらしい。それは水晶を見れば分かるとのことだった。
錬成台を探ってみると、水晶の根元に紫色へ変色している部分があった。記述によれば、それが残存魔力とのことである。
残りの魔力量は多くは無さそうだ。だが、もしできるのであれば、ぜひ試したいものがあった。
メモの裏面に書き殴りの文があった。左手で書いたのか、意図的に汚く書いたのか、明らかに読ませまいとしている。
ならなぜメモに残すリスクを冒したのか。第三者に読まれたくないなら他の手段もあったはずだ。ここに残す必要があったのか、あるいは他の理由か。
『
短い文章であったが大事なもののように思えた。また最後の文字も謎だった。魔術の単語だろうか。汚い字のため別の字かもしれない。
洗脳の付与を早めに使えの意図は、恐らく先に使われると厄介だからだ。洗脳された場合、後で解除は可能なのだろうか。
思案した末、まずは火の付与と、防護の付与を優先した。最後に洗脳の付与を使うことにする。
錬成台はコンピューターのようでもあり、見たことのない絵や文字が浮かび上がった。メモを見ながら感覚的に使えた。
火の付与を施した石は、早速熱を帯び始めた。小屋の中央にある窪みに置き、囲炉裏代わりとした。
防護の付与は試しに自分のシャツに付与してみた。使えるかどうかの実践をどこかで試せれば良いが。
洗脳に関しては心苦しかったが、レイカにこっそり実験体になってもらうつもりだ。自分でできれば良いが、そうもいかない。
洗脳は物体に付与したあと、それを誰かに着けてもらう必要があるらしい。そんなチャンスは滅多にない。
レイカは今、慣れない疲れと空腹を満たしたこともあって寝息を立てている。寝顔もきれいなものだ。
洗脳の効力が期待通りに発揮されるなら、仮に敵対的な者に遭遇した際も服従させられるだろう。多くの人間を操れれば、いざという時自分達の守りにもなる。
まああくまで期待通りであればの話だ。期待外れだったら、それはそれで命取りになる。
彼女は眠る前に髪留めを外していたので、その髪留めに付与を行うことにした。
そういえば洗脳には拘束と従順があると書いてあった。できれば従順も使いたかったが、残量からそうもいかず、できる組み合わせで付与を行った。
髪留めは心なしが色を帯びたように見える。これがどこまで力を持っているだろうか。
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