第2話

 手の中のメモを置いた。メモは装飾の施された木箱の中で大事そうに保管されていた。他にもメモはあったが、暗くて読むのに手間取りそうだ。


 森を探索中に浜辺から近い所で小屋を発見した。メモはその半壊した小屋の中にあった。木漏れ日がぼろぼろの屋根を抜け、扉付近をわずかに照らしている。


「誰かいるの」


 ふいに女性の声が聞こえてきた。


 振り返るときれいな女性が立っていた。光の当たった髪は黄金色で、肌は白く、鼻や口は丹精な造形のフィギュアを思わせた。


「君は誰だい」


「そっちこそ誰」


 女性の声が少し高くなった。緊張だろうか。


「俺はリク。よろしくな」


「……私はレイカ。そこで何してるの」


「探し物だよ。水とか食料とか」


「ここの人じゃないの」


「残念ながらね」


「それじゃあ、あなたも遭難者なの」


「そういうこと」


 彼女は地面に視線を落とし、唇に指をあてた。


「水はあったの?」


「今のところは見当たらない。もちろん食料も。まああっても腐ってるだろうけど」


「分かった、他を探すわ」


 そう言って踵を返す。


「待った」


 レイカは足を止め、静かに視線を戻した。


「なに?」


「協力しないか。分からない事が多すぎる。協力すれば水も食料も見つかるかもしれない」


 彼女は無言のまま、ただ顔をしっかりと向けた。


「あなたの姿が全然見えない。少しこっちに来て話して」


 一歩二歩と進みながら言葉を足した。

「失礼。これでどうだい」


「それ以上近づかないで」


 彼女は俺の爪先から髪先に至るまで見つめていた。途中細めた目が険しくなったり、ゆるんだりしたが、視線の鋭さは落ち着きをみせていった。


「一応、信じてあげなくはないわ。感謝して」


「そ、そう? 感謝します……」


 良い家の出なのだろうか。


「それでどうすれば良いの」


「まずは水と食料を確保する。その上で帰れる手段を探す」


「いいわ、協力してあげる。そのかわり変な気を起こしたら、すぐに解散よ。というかあなたを殺すわ」


「物騒な……何かあったの?」


「男はみんなケダモノって教えられたもの」


 ふいっと顔をそむける。

 レイカの高そうな服はまだ乾いておらず、白い生地の部分が肌に張りつき少し透けていた。長い髪の隙間からはきれいなラインのうなじがのぞく。


 頭を振った。自分がやらなければならないことはなんだったか。


「そうだ、メモがあったんだ。そこに水場とか食料の情報があるかもしれない」


「なるほど。役立たずではなさそうね」


「言い方ぁ」


 レイカはそこで初めて歯を見せた。なるほど、さぞかしになるのだろう。そんな雰囲気を持ち合わせていた。

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