同級生のおじとめい⑤

 食後の休憩を少し挟んでから、俺たちはプールに向かうことにした。今日のメインは、ここだったのだ。時雨は泳げるのか? と午前中のことで疑問はあったが、今更取りやめるつもりもない。

 時雨も嫌だなんて言わないものだから、俺たちは更衣室で着替えて、プールサイドで再度合流した。男子のほうが早くて、次に雪菜が出てくる。

 ショートパンツにランニングのようなスポーツウェアとしても見かける形のビキニは、雪菜によく似合っている。

 バスケ部の練習は室内なので、日に焼けているようなことはない。それでも、引き締まった太腿やくびれは運動する人間特有の美麗な線を描いていた。


「どう?」


 にこりと頬を緩める雪菜が求めているものは分かりやすい。苦笑にもなるが、これはまぁ一応義務だろう。

 透流が如才なく、


「似合っているよ」


 と微笑んでいた。こういうことを言わせると、途端にチャラついた男に見えるのだから不思議だ。どこかまとわりつく余裕のようなものが、そうした雰囲気を醸し出すのかもしれない。


「貴ちゃん」


 むっと睨まれて


「ああ……」

「遅れた、ごめん」


 頷こうとした矢先の声に、目がそちらを向く。

 一番に飛び込んできたのは、真っ白なビキニから溢れんばかりに盛り上がっている胸部だった。

 それから、引き締まったくびれ。パレオの隙間から覗く太腿の肉感。一部が隠されていることが、逆に想像力を逞しくする。後れ毛が揺れるガラスのように壮麗なうなじが眩しい。思わずまじまじと凝視してしまった。

 時雨の顔が悩ましげに揺れて、ごきゅっと喉が鳴る。


「見すぎでしょ」


 真っ白な腕が胸をカバーするように寄せられた。二の腕が胸を寄せてしまっていて、正直言って逆効果だ。


「貴大。お前、本当に分かりやすいな」

「……はぁ?!」


 横から茶化すような声をかけられて、ようやく我に返った。調子っぱずれの声は、周囲から視線を集めてしまうほどに高い。

 透流の顔を見れば、にやにやと締まりの悪い顔をしていた。殴ってやりたいほどだ。


「落ち着けよ。ほら、言うことがあるんじゃないか? 雪菜ちゃんには俺がたっぷり言っといてやるから、時雨ちゃんに感想を伝えてやれよ」

「失礼しちゃうよね」

「いや、俺は……」

「往生際が悪い」


 どうやら、二人ともからかいモードのようだ。透流に感化されたのか。雪菜もなかなか意地悪な顔をしている。

 往生際も何もない。俺は当惑しながら、そろりと時雨に視線を流す。あちらも困り顔になっていた。ほのかに頬が赤いのは、からかわれているがゆえだろうか。俺の視線の問題でないと思いたい。

 というか、何にしても赤くなんなよ。こっちまで、恥ずかしくなるし、あるはずもない観念なんてものをしなくてはならないような気持ちになってくる。


「ほーら、ほらほら」


 痺れを切らしたのか。透流が俺の背を押して、時雨のほうへ押し出す。

 予期していなかったものだから、想像以上に足が出て、時雨にかなり近い位置まで近付くことになった。

 見下ろすと、胸の谷間が深淵となってそこに鎮座している。挟まれたい……とは、どこを、だっただろう。


「……似合ってる」


 本音ではあったが、お膳立てされていかにもな雰囲気に流されるのは不本意だった。ゆえに声量は小さくなってしまい、囁いたかのようなありさまになって狼狽する。

 時雨がかぁっと赤くなった。水着で髪を上げているものだから、邪魔するものが何もなく、耳から首元まで真っ赤になっているのがよく見えて余計に焦る。

 こっちまで熱くなった。


「ありがとう。あんたも、似合ってる」


 こちとら、紺色の特に柄もないありふれた水着だ。上にラッシュガードとしてパーカーを羽織っているが、それだってオフホワイトよりもグレイ寄りのカラーで、オシャレな着こなしなんてものではない。

 だが、何か言わなくては間が持たなかったのだろう。こちらもたまらなくなって、ずんと踵を返した。にまにま眺めているお調子者二人を睨みつける。


「泳ぐんだろ! 行くぞ」


 照れ隠しなんてのはバレバレで、新たな餌を与えてしまいそうな気がしたが、それでもいい。

 とにかく、いたたまれない空気から逃げ出したかった。

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