第二十五話〜第三十二話
第二十五話
根音
和音中のいちばん下の音。「ドミソ」の和音だったらドの音。単純に、鳴っている和音の一番下の音という意味ではありません。詳細は楽譜抜きでは説明しきれないことなんで、興味のある方は音楽の解説サイト等へ。
自分が出している音はコード中のどの位置の音なのか分かればいい
前項の延長で話をすると、「ドミソ(C)」の和音ならドが根音ですが、他にミは第三音、ソは第五音と呼ばれます。「レファラド(Dm7)」の和音だったら、ドが第七音。「ソシレファラ(G9)」の和音だったらラが第九音。
で、根音とか第五音とかはいいんですが、第三音は半音の六分の一前後、高めもしくは低めに取る必要があります。第七音は半音の八分の一程度。慣れたら、文章で説明するほどに面倒なことでもなく、作中のシーンみたいに音階をそのまま和音に重ねて鳴らす程度の練習の理屈なら、一年生でも呑み込めることだと思います。
バリ・チューバ
ユーファニアムとチューバをまとめてこう呼びます。ユーフォニアムにすごく似ている楽器にバリトンというものがドイツ語圏でありますが、それを強引にユーフォの同義語として、バリトン&チューバを略したものです。
元よりサイズ違いだけの同一の楽器と見られがちなユーフォとチューバですが、歴史的にはそう簡単にまとめられません。とは言え、音色の系列としては同じものと見なせるので、こういう呼び方が出回るようになってきました。
ブラスのひびき
1983年から2002年までNHKFMで放送されていた、吹奏楽及び管楽器音楽主体の番組。一時のブランクを経て、2008年より「吹奏楽のひびき」の名前で事実上復活。日曜の朝はこれをエアチェックして練習に出る、というのが、全国の吹奏楽少年少女の模範的な行動スタイルでした。多分。
第二十六話
音大時代に管弦打楽器専攻生と色々と確執があった
唐津貴之の母親は音大の声楽科出身という設定です。一般論として、声楽科(うた科とも言います)がオケ関係の器楽科と相性が悪い、というわけでもないのですが、まあ管弦打楽器科とうた科っつーたら、あんまり接点がないから、価値観が違うことはそれなりにあります。
声楽科はのどと体を大事にするんで、練習の虫というタイプはいません。一方で、器楽科は一日何時間練習したかということそれ自体を競い合ってるところがあります。また、声楽科は良くも悪くも人生を楽しみ、恋を(教官自ら)推奨する風土がありますが、その点器楽科はストイックです――と言いながら、浮いた話の数など、器楽科と声楽科で違いがあるように見えないのが面白いところですが。
ただ、そういうことを言い出したら、ピアノ科なんてのは、いわば機械仕掛けで音楽やってる連中なんで、「音大の中ではいちばん音楽的じゃない」なんてことを言われることもあるし、そういう陰口を叩く時は、うた科と管弦打楽器は結束しますね 笑。さりとて、ピアノ科と言えば伴奏をお願いする相手ですんで、その辺の言い合いはまあ、適当なところで止めるんですが。……えーと、何の話でしたっけ?
今年のコンクール課題曲III
全日本吹奏楽コンクールは、課題曲と自由曲の二つを続けて演奏する形で、一団体あたりのステージが作られています。自由曲は言葉通り、演奏者の方でやりたい曲を(規定時間内に収まる内容で)選ぶんですが、課題曲は吹奏楽連盟の方で用意した四曲ほどの中から選択する形になってまして、楽譜も吹連が発行してます。
もう少し詳しく説明しますと。
吹コンの課題曲は、ごく初期の頃は既存の曲を指定していた時代もありましたが、1970年頃からそれらは全て新曲となり、前年度に募集した(または委嘱した)数曲を新規に出版して参加団体に売りつけ、その中から各々が選んで舞台に載せる、という形になってます。言い換えると、毎年四曲前後の新作が全日本に広く行き渡り、かつ、その都度学生たちにとっての思い出深い曲となっていくわけです。
四曲の内訳は、だいたい二曲がマーチで、他の二曲は三部形式だったり舞曲形式だったり標題音楽だったり支離滅裂だったり 笑。呼び方については、その四曲をA・B・C・Dと呼び分けていた時代もありましたが、近年はI・ II・ III・ IV・ Vで区別してるようです(もちろん、曲としてのタイトルは別につけます)。
当然人気不人気のランキングなどもあり、「今年はいい曲ばかり」「今回は駄作だらけ」みたいな波もありまして、制度の頻繁な改変と相まって、時に業界全体で喧しい議論が出ることもしばしば。その一方で、中高生時代に自分の手がけた曲を「名曲だった」と美化する傾向はどの年代にもあり、中年以降になった世代が、近年の流行をあげつらって「最近の子どもたちはかわいそう」みたいなことを言うのも、五十年前からある風潮です。
無調
文字通り「調のない音楽」というのがいちばん簡単な説明ですが、もう少し専門用語っぽく言うと「調性感を感じさせない、あるいは感じさせにくい音楽」ということになりましょうか。
では調性感のない音楽とは。一義的には、主音(中心音)が何かわかりかねる音楽、という言い方になるでしょうか。ですが、どう聴いても訳が分からない曲でも、きちんと楽譜を分析すると「これが中心音だ」と主張できてしまうことも結構あります(ウェーベルンとかバルトークの音楽にそういうのが見られます)。が、これは玄人向けの話になってくるんで、一般的な「無調」とは「主音」が不明瞭、つまり、メロディーの最後の落とし所をどこにしていいのか見当がつかないタイプの音楽、といえばよろしいかと。
私個人は、「要するにドレミファで歌えない音楽」と説明することもあります。だいぶん乱暴な言い方なんですけどね。
第二十七話
「カドリーユ」
作中の曲は、全日本吹奏楽コンクール1983年度の課題曲C、後藤
カドリーユ自体は「ワルツ」「メヌエット」等の舞曲の種類を指す楽語で、絶対王政時代に流行った貴族階級のダンスの一種。四組の男女カップルが「あんたがたどこさ」やってるような、いわば大人のフォークダンス。後に庶民階級にも拡がってテンポも上がった模様。基本的に二拍子もしくは四拍子で、原語の意味は「四角形」。
83年課題曲の「カドリーユ」は、どういうわけか八分の六拍子で、ところどころヘミオラ(123・123が一時的に12・12・12のアクセントになる)入ったりと、典雅な貴族舞踊という感じではないものの、木管の柔らかい質感を活かして古典のダンス形式に正面から取り組んだ、当時としては斬新な吹奏楽曲であり、課題曲でした。輝かしいファンファーレがデフォルトだったこのジャンルで、ムード音楽のようなゆったりしたイントロの曲が現れて、思わず夢中になった中高生はさぞ多かったことでしょう。
サッシン
サスペディド・シンバル、つまり吊りシンバルの略。ドラムセットに入ってるのをそのまま流用することも可能ですが、オケや吹奏楽では一応別の形態の楽器があります。第十三話中の項目もご参照のこと。
「行進曲 青春は限りなく」
1979年度課題曲D。奥村
後打ちというのは、チューバやバスドラの「ボン、ボン、ボン、ボン」という規則正しい拍打ちの音に対して(表拍と言います)、「ンパ、ンパ、ンパ、ンパ」とビートの間に挟まるように鳴らす(裏拍と言います)リズム打ちの片割れのことで、吹奏楽のマーチではトロンボーンやホルンがしばしばこの音を鳴らします。が、多少でも強く鳴らすと「重たいっ、もっと抑えて」と言われるし、かと言って弱音でずっと鳴らすのってしんどくて、特に高音の後打ちだったりすると唇のへばり方がひどいんです。音楽的には全然目立たないのに気は遣うし、別に音出さなくていいんじゃね? と思いたくなります。
という中音域金管を哀れに思ったのか、「青春は限りなく」ではなんと、後打ちは全部スネアがやってくれているのです!(だったはず) つまりは、「トロンボーンとホルンにとっては」という意味なんですけど 笑、この曲はほんとうに楽な曲で、でも各楽器に見せ場もちゃんとあって、吹いてて楽しい! という曲でした。こんなマイナー作品が登場したのは、単にそれが理由です。
フガート
フーガ風の楽句、ぐらいの意味。つまり、厳密にはフーガとは言えないんだけど、テーマが追いかけ合いみたいな感じになってて、フーガっぽいことしてる、曲の一部分のこと。ちなみに、独立した小曲でフーガっぽい緩いつくりの曲は「フゲッタ」と言います。
吹奏楽曲の解説なんかで「中間部のフーガが」なんて書いてるのは、大概はこのフガートです。バッハの編曲ものをやってるとかならともかく、厳密な形のフーガを扱った曲なんて、短い吹奏楽曲にはまずあり得ないし、長い曲でも今の作曲家はそんな面倒なことは(聴いてる方もどうせ分からないんで)まずやらないですね。
平行和音
同じ音程間隔のままで二つ以上の和音を続けざまに奏したもの。分かりやすく言うと、キーボードで「ドミソ」の和音を弾いて、その指の形を正確に維持したまま、上方向とか下方向に打鍵を続けていけば、全部平行和音になります。
第二十八話
アクセント、縦向きと横向きと二種類あるよね。
特定の音を強めて演奏する、というのがアクセントの意味ですが、アクセント記号には「Λ」の形と「<」の形とがあり(この部分、縦組み表示だと違いが分かりません)、ニュアンスが違います。どう違うのかはしかし、作曲家によって言ってることが微妙に異なり 笑、時々聞いてびっくりな解釈を披露してくれる人もいます。困ったもんだ。
一応共通認識っぽいこと(と湾多が思ってること)を書くと、「<」は一般的なアクセントで「その音を強調して目立たせる」、「Λ」はさらに「重たく」というニュアンスが入ります。強さとか強調の度合いで言えば、「Λ」の方が一段上のイメージです。
ストレッタ
フーガで、曲の最終局面でテーマを圧縮した形にし、その上で複数の声部で畳み掛けるように奏して盛り上げていく手法。あえて詩の形でそれっぽく表現すると、
エフゲニアはメイスを飄々と振り回し
幾多の鉾と火花を散らしつつも、なおも振り回し
エフゲニアはメイスを振り回し
鉾とうち交わしつつも振り回し
エフィーはメイスを
メイスを振り回し
鉾と火花を散らし、散らしつつ
エフィー、メイスを振り回し、なおも振り回し、回し、
鉾と火花を
火花を散らし
なおも散らし、散らし
振り回し、振り回し、エフィー、回し、メイス
まあこんな感じ? あまりいいたとえではないかも知れませんけれども。
フーガ以外でも、曲の終わり近くでテーマを縮めた形にしてせっついた感じにしているところは、ストレッタと呼ぶことがあります。
ブレス
息継ぎ。管楽器では、曲のどのタイミングで肺に空気を補給するのかという問題それ自体が重要なテクニックとなります。
第三十話
楽団によってパートの舞台配置は様々ですが、非常に多くのケースでトランペットはひな壇後列の、客席から向かって左側、トロンボーンはその右側に並びます。そして、各パートの首席奏者は中心寄りに座るという一般ルールがあるので、トランペットの一番とトロンボーンの一番はほぼ常に隣同士です。
管弦楽だと、例えば木管楽器のクラリネットとファゴット、フルートとオーボエなども一番が隣り合う配置なのですが、吹奏楽だとそれらのパートは前列で結構ぐちゃぐちゃな配置になることが多く、一番が隣り合うことはむしろ珍しいかも。結果、パート単位できっちり横並びになるのはペットとボーンぐらいしかなく、主席奏者同士が隣り合う物語は、この二つのパートの間でしか成立しません。まあ、前後に分かれてもいいのなら、ペットとボーンとホルンとユーフォがリーダー同士視線を交わし合う、という状況を作れますが。
本来トロンボーンは、ユーフォよりもチューバと縁が深いパート
もちろん、曲によります。ユーフォとチューバを一オクターブ離してほとんど同じ音を吹かせる曲もあれば、ユーフォは対旋律専門、チューバは低音ロングトーンのみ、という割り切りで書いてる曲もあります。
ただ、管弦楽では、特に十九世紀半ば以降の交響曲など、トロンボーンとチューバは完全に一セットで考えられている音楽がほとんどです。総譜(スコア)を見ても、低音金管だけひとまとめにして「Trb & Tuba」と二段譜にまとめて記載されることが多いです。
当然、管弦楽の編曲ものはそういう楽器法で譜面が作られますし、伝統的な管弦楽の響きを継承した形の吹奏楽曲もそうです。そして、その数は決して少なくありません。
「本来」と断ったのは、そう言う意味です。
第三十二話
シンコペーション
きっちりしたビートからずれたところにアクセントがくるリズムのこと、とでも言いますか。今どきの音楽ってシンコペーションだらけなんで、うまく説明するのが難しいのですけれど。
たとえば、ゆったりした歌を歩きながら歌うとして、足の動きとノリがかち合うような音があったら、それはおおむねシンコペーションの音と思っていいです。
他の説明としては、そうですね――口三味線でリズムを歌う時に、「んぱんぱ」とか「ん・ぱー」みたいに「ん」が入るような場合も、「ん」の直後の音がシンコペーションの音と言ってよろしいかと。
ポピュラー音楽のリズムパターンの一種で、四分の四拍子、かつ二拍目四拍目にアクセントが来るリズムのこと、というのが辞書的な説明。要するに、四分音符できちんとリズムが取れるタイプの音楽のこと。もっと言うと、四分音符より細かい単位にしなくてもノれる音楽。原則として、ですが。
フリージャズ
なんでもありのジャズ……という言い方でいいものかどうか。でも聞いた感じはそうとしか言いようがないですね。
六十年代のヒッピー文化なんかの関わりで、色んな分野で「もっと自由を」みたいな動きがあったんですが、それのジャズ版とでも言いますか。とにかく、決まり事とか定式とかを全部とっぱらっていこう、という路線を模索した人々の音楽をまとめてこう言うようです。でも、全くの無秩序では音楽演奏そのものが成り立たないので、自己矛盾も吹き出して、結局は「コード進行・旋律・リズムのあり方においては」非定形を目指そう、ぐらいに落ち着いた……のかな? 後にノイズ・ミュージックとかパフォーマンスアートとか概念芸術とか、色々派生していったりもしてますので、今なお発展形の音楽とも言えます。
短いフレーズを吹いて、一小節遅れでそれをエコーのように真似る
いわゆるコールアンドレスポンスですね。ポップシンガーのライブなんかでも、観客相手によくやるやつです。
ハイノート
直訳だと「高い音」。その楽器にとって、発音がやや困難になってくる音から上の音域をこのように呼びます。ピアノのように、ネコでも簡単にどの鍵盤も叩ける楽器はこういう言い方はありません。使われるのはやはり主に管楽器です。
では、トランペットのハイノートはどこからか、というと、厳密に決まってるわけではないのですが、まあ奏者が中学生という前提なら、ト音記号の上加線が入るあたりから(トランペットで言う「上のラ」)。中級以上のトランペッターだと、上加線二本のその上ぐらいから(「上の上のレ」)。
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